―過ぎ去った日々―
過ぎ去った日々は
淡く儚いしゃぼん玉のよう
高く高く飛び上がればもう届かない
大きさ強さはそれぞれで
いつかは割れてしまう
なぜ割れたのかは誰も知らない
訪れる明日は
謎に包まれた玉手箱のよう
箱の中は魅力的な未知の世界
蓋を開ければ得体の知れない白い煙が
こちらの気なんて知ろうともせずに
容赦なく襲いかかってくる
―お金より大事なもの―
〈お金なんかより命の方が大事だ〉
〈お金は取り戻せても命は取り戻せないんだからな〉
〈命はお金じゃ買えないんだぞ〉
…とか
なぜなのかはよく分からないが、
お金と命は比較されることが多い
決してそれらが対になるわけではないのに、と
私には疑問に思えて仕方がない
さて、私は、“お金より大事なもの”はないと思う
金に飢えた薄情な奴だ!
なんて言われるかもしれないが、
私はそういうことを言っているんじゃない
お金を上回るものはない
と言っているだけであって
お金と等しいものはあると思う
私の考えでは命がそうだ
〈お金より命が大事だ〉と主張する人に、
「では命さえあればお金が全くなくてもいいのか」
と問えば、その人は首肯することが出来ないし
〈命よりお金が大事だ〉と主張する人に、
「ではお金さえあれば命がなくてもいいのか」
と問えば、その人もまた首肯出来ないだろう
残念と言うべきか、人の世界はお金でできている
その世界で生きる命にはお金がないと
命を生かすことすら出来ないし、
だからといってお金さえあればいいのか
という訳でもない
お金がどれだけあろうと、命がなければ
消費できない
目にすることもできないし、
価値すら分からないからだ
命のためにはお金が必要
お金のためには命が必要
だから、命の方が大事だ、なんてことはないのだ
と私は思う
―月夜―
星々がいつもより遠慮がちに光る月夜
いつもより僅かに大きく感じる満月を
私の隣で眺める彼
「月が綺麗ですね」
ふと呟き声が隣から聞こえた
思わず彼の方を振り向くと
暗くて表情は掴めなかったけれど
彼と目が合った
どちらの意味なんだろう
どう返せばいいのだろう
そう思い悩む2秒間
星々がいつもより遠慮がちに光る月夜
いつもより僅かに明るく感じる満月を
僕の隣で眺める彼女
『月が綺麗ですね』
伝えるなら今しかないと思った
文系の彼女なら意図が分かるだろうと
勝手な期待を込めてみたのだけれど
彼女は何も言わないから思わず盗み見た
どう受け取るのだろう
どう返してくるだろう
1人で赤面する2秒間
―絆―
もしも、絆が可視化出来たなら
人々の想いが人それぞれ、
様々な色の糸で表されていて
その糸同士の結びつきを絆として
誰もが目にすることが出来たなら
たくさんの結び目がある糸や、
逆に結び目が2つしかない糸
ボロボロで今にも切れてしまいそうな糸、
太く丈夫な糸
絶対に解けないだろう、
絡まりのような結び目、
自然と紡がれたものじゃなくて
意図して自分で紡いだ糸…
絆の種類は数多くある
それを否定することは誰にもできない
国境をも越え絡まり繋がりあった糸は
それはそれは儚く、美しい、
芸術作品と等しいからだ
―たまには―
これは、遠く遠くの未来の話
未来に存在するとある▇の話
▇はある日、
たまには自分の本心をさらけ出してみたい
と思った
▇はいつも眩い程の優しい笑みを
浮かべていて、自分の考えや意見を
そのまま突き通すことなんてごく稀だった
そんな▇の中にストレスや疲労は
雪が降り積るように蓄積していき
溶けることはなかったのだった
そんな中でも、いつも内に込めたまま
発散させることはなく、いつしか
▇にも限界が近づき、
たまには自分の本心をさらけ出してみたい
そう思うようになった
それで、▇はある日、たまには大丈夫だ
と、ほんの出来心で、
“自分の本心をさらけ出した”
▇の本心は最早自分でも気づけないくらいに
汚れていた
▇は自分の中の汚れを全て外に流すため、
とにかく毒を吐き、とにかく暴れ狂い、
思うがままに行動した
すると、
▇の周りは皆慌てだした
頭を抱えるのもいた
▇の口から溢れて止まらない毒に
耳を塞ぐ者や、泣き叫ぶ者、
じっと目をつぶって蹲る者や、
跪き、▇に向かって必死に
手を合わせる者など、人々の反応は様々だった
草木は枯れ果て、人を含む生き物は皆、
みるみるうちに弱くなっていき、
やがて失神するか、
生気を失うかになってしまった
空も表情を無くし、災害などが絶えなくなった
▇がやっと目を覚ましたとき、
それはもう遅すぎた
▇の暴走が止まり、▇が見た世界は、
もう生物という生物全ての呼吸が止まり、
もう何の音もなく、何も動かない
▇は、
自らの手で今まで創り上げてきたこの世界を
自らの手で跡形もなく壊してしまったのだった
とある神の話