―勿忘草(わすれなぐさ)―
君とはもうずっと会えていないけれど
僕は未だに君を忘れられない
家族や友人からは
聞き飽きるほど言われてきた
もう諦めた方がいいと
でも、まだ君を忘れられない
私は勿忘草が好きなんだと
教えてくれた君の声は
鈴の音のように凛と澄んでいて
今まで生きてきた中で
君より美しい声の持ち主はいない
僕はまだ君を忘れない
だから今年も
君の好きな花を買いに行く
君が働いていた花屋に
そして今年も
君に勿忘草を渡しに行く
君の眠る墓に
―ブランコ―
とある夜の公園にて
「お待たせ」
『やっと逢えた』
待ち合わせをしていた彼との再会を果たした
『それにしても、よく戻ってこれたね』
「ちょっと余裕ができたからね
様子見に来たんだよ」
灰がかった青い空に月や星など出ていなくて、
公園の地面を照らすのは、
珍しく蛾の寄っていない街灯の光だけだった
「ん〜なんか遊ぼっか!」
『ブランコとか?乗る?』
公園には、中央に大きな常緑樹、
それを囲むように、ジャングルジム、シーソー、
滑り台と砂場、ブランコ、ベンチがあった
「いいね
…あー落ちたらどうしよw」
『流石に落ちはしないでしょw
…運動音痴の君のことだから、
保証はしないけど』
僕らはブランコに乗った
「50m走たった1本で息が切れる人に
言われたくないね」
『お互い様ってことでしょう?』
虫や野良猫の姿さえ見えないここには、
静けさが満ちて、
公園の隅々にまで沁みていた
「てかさ、随分と雰囲気変わったね
想像以上で、ちょっとびっくりした」
『そう…かな…?
いや…うん、そうね、
かなり変わったんじゃないかな、多分』
特にどちらが高く漕げるか試そう!
なんてことはなく、心落ち着くペースで
小さく小さく揺られながら喋っていた
「うん…だいぶ明るくなったと思うよ」
『…そうだろうね
もう、あの頃の僕は今の僕じゃないから』
街灯がチカチカと点滅し、
またぼんやりと光り始めた
「…ほんと、強くなったね」
『おかげさまで』
どこかで、鳴き声が聞こえた気がして、
木々を轟かせる一際強い風に、
隣の友人が微かに反応したのがわかった
「その調子だと、上手くいってるんでしょ?」
『まぁね
友達もできたし、クラスにも馴染めてるし
いじめとかもない
勉強や部活もそこそこ頑張ってるよ』
ほっと息をつき空を見上げた友人に釣られて
僕も天を仰いだ
「…よかった
俺さ、向こうに行ってから、ずっとずっと、
それだけが心配でさ
自分のことなんてどうでもいいくらいで」
『そんなに…
…嬉しい』
そういえば、
昼間は…いや、友人がここに訪れるまでは
雲なんてひとつもなかったような
『でも…僕はもう大丈夫
この先、何があるか分からないけど、
きっと大丈夫
今なら心からそう思えるんだ』
「…その言葉が聞きたかった
その言葉を、君の口から聞けただけで、
ここに来た甲斐があったって思える」
やがて月が顔を出して、友人の顔が
白く照らされているのが見えた
『…』
「よかった…」
僕の方をまっすぐ見て微笑む僕の友人は、
うっすらと全身が透けていて、
友人越しに公園の遊具が見えた
公園の入口で会ったときは、
そんなことなかったのに
彼は、雲の晴れた明るい夜空を見上げ、
目を閉じた
そして、祈るように手を組んで、
呟くように小さく、でも強く、言った
「君の全てが上手くいきますように」
彼は冷たい夜空に消えた
―I LOVE…―
今まで、ずっと君に伝えたかったこと
伝えたくて、受け止めて欲しくて、
でも、君に言ったら
どんな反応をするのか怖くて、
ずっと言えなかったこと
今思えば、
なんで今まで言えなかったんだろう
って思う
こんなことになってからじゃ、
もう手遅れなのに
でも、言っておかないと、
いつか後悔しそうだから、伝えようと思う
I LOVE…
もう、決して瞳の開かない君へ
もう、決して笑わない無い君へ
―優しさ―
さぁ、帽子を被って、虫眼鏡を持って
優しさを見つけに行こう
日常に潜んだ優しさは
きっとたくさん見つかるよ
普段じゃ気づけない優しさが分かれば
きっと人に優しくできる
きっと人に感謝できる
きっと周りが和やかになる
きっと世界は輝き出すよ
―ミッドナイト―
暗い中、ネオンの装飾だけが
ぼんやりと周りを照らす
窓は無い
ただ、とても広い
一角にあるバーからの光が
1番目立つが、バーには誰もいない
客も、バーテンダーもいない
が、ただ唯一、
人が集まっている場所があった
中央に回転盤がついているテーブル
その周りに置かれた6つの椅子に1人ずつ、
人が座っていて、
その人達を見守るように立つ、
タキシードを着た男性
そして、そのテーブルを
取り囲むように人が集っていた
ポーカーフェイスのタキシードの男性以外は、
みんな緊張に満ちた顔をしていた
例外として、
最近初めてお菓子の味を占めた子供のように、
キラキラと好奇心に満ち溢れた顔で
椅子に座る人がひとりいた
そう、もうすぐその時が来る
ミッドナイト オブ カジノ