曇り
晴れやかだった気持ちがすっかり曇ってしまった。
それも結構などんより具合で。
ひょんなことから仕事関係で出会い、その後定期的に会うことが当たり前だった人がもうすぐ目の前から消える。
正味二ヶ月の間、文字通りとてもこき使われてきた。
「俺、人使いが荒いだろ?」
関係性に多少慣れてきた頃だった。
そう言ってニヤリと笑う彼に「どうぞ、何なりと仰せのままに。」と澄ました顔で言ってみせ、ひとまずは笑いを取った。
つかみはまずまずだ。
先に惚れたのはたぶん私の方。
まず、的確で無駄のない、美しい仕事ぶりに惚れた。
私が求めていた理想のボス像にこの上なく近い人だったからだ。
愛想のなさは対外的にはマイナスだろうが、私の得意とする愛嬌でカバーできる範囲だろう。
そう思った矢先のことだった。
予想だにしない彼のおっちょこちょいが顔を出し、盛大に笑かしてくるではないか。
ズルい。かなりズルい人だ。
別れが近いことに先に気付いたのは彼の方だった。
「◯◯さんとも来週の水曜日が最後だな。」
腰にくる妙にいい声で、彼がそう言ったのだ。
声の善し悪しにこんなに気持ちを揺さぶられたのは初めてのこと。
恋は性欲だと言われる由縁が体感としてわかってしまった瞬間だった。
人づてには恥ずかしいくらい褒めてくれているらしいが、私はまだ気付かないふりを続けている。
今後の心模様はどうなるだろうか?
曇りのままなのか?
雨になるのか?
それとも晴れるかな?
晴れたらいいな。
こんなに晴れが恋しいのはいつぶりだろう。
遥か昔、幼稚園の遠足の前の日にてるてる坊主を作ったあの日以来かもしれないな。
お題
曇り
どこ?
どこ?
私がいつも探しているのは自分の気持ちだ。
何が食べたい?
誰かにそう問われてもすぐには答えられない自分がいる。
食べたいものがないわけじゃないのだけれど。
「うーん、何がいいかな?」
ひとまずはそんな言葉が口をついて出る。
そのうち相手がいくつか候補を出し、やがてはそのどれかに決まることになる。
要は何でもいいのだ。
さすがに蒙古タンメンの北極を食べようと言われたら断るけれど。
いつからだろう?
そうやって自分よりも他人の意見を優先するようになったのは。
待てよ。いい機会だから思い出してみることにする。
幼稚園や小学校の頃は、今とは違い、とにかく喧嘩が多い子どもだったと記憶している。
意見の食い違いがあると男女構わず取っ組み合いの喧嘩をするような、やっかいな子どもだった。
中学高校もどちらかと言えば教師が手を焼く生徒だったと思う。
素直さとは程遠い、反抗的な性格をしていたからだ。
だから決して大人しい性格などではないし、気が弱かったわけでもない。
それならなぜ、今の私はこんなに自分の立ち位置がわからない人間になってしまったのだろう?
どこにいる?
何がしたい?
定期的にそう自分に尋ねてみる。
その都度、それなりに答えが出るから、どうやら自分の主張がないわけではないらしい。
そして何より困ったことは、私はこんな曖昧な自分を気に入り、受け入れてしまっていることだ。
たぶん、今のこの状態が心地いいのだろう。
もう喧嘩は面倒くさい。
色々あった結果、きっと今の自分に自ら生まれ変わったのだと思う。
うん。平和がいいよ、平和が。
お題
どこ?
願いが1つ叶うならば
もしも、願いが1つ叶うならば、降るような星空をあなたと2人で眺めたい。
もう、これで願いごとはおしまいね。
それでも、欲張りな私はきっと諦めきれずに、あなたと2人で過ごす未来を降る星々に願うでしょう。
そのとき、あなたはどんな願い事をするかしら?
お題
願いが1つ叶うならば
風が運ぶもの
オキノタユウという鳥をご存知だろうか?
別名をアルバトロス。
また、大型の海鳥であるこの鳥は、警戒心が希薄なためアホウドリとも呼ばれている。
何とも不名誉な呼び名だ。
羽毛取りなどの乱獲で一時は数が激減し、1949年には1度絶滅を宣言されたが、その後手厚い保護活動が功を奏し、徐々に生息数を増やしてきている。
このオキノタユウは翼を広げると2・5メートルにもなり、時速80キロの高速で海原を滑空する。
まさに風が運ぶものである。
白く大きく、美しいその姿から、海の女王との異名を持つ。
寿命は長いもので70年ほど。
命ある間は同じパートナーとつがいになり、1年に1度、1つの卵を協力して温め、子どもを育てる。
餌を探すために片方のパートナーが1週間もの間留守にしても、もう一方は飲まず食わずで卵を温め続けるという。
信頼関係あってこその共同作業だ。
ここに至る少し前には、お互いにパートナーを探すための求愛のダンスを踊ったはずだ。
カチカチと嘴を鳴らし合うリズムが一番合った相手と結ばれるという、何ともユニークで情熱的な鳥でもあるのだ。
150年ほど前には北大平洋西部の島々に分布していたが、現在では全世界で伊豆の鳥島と尖閣諸島および小笠原諸島聟島列島でしか繁殖に成功していない。
種としての総個体数は4500羽
。
現在、オキノタユウは国の特別天然記念物に指定されている。
お題
風が運ぶもの