曇り
晴れやかだった気持ちがすっかり曇ってしまった。
それも結構などんより具合で。
ひょんなことから仕事関係で出会い、その後定期的に会うことが当たり前だった人がもうすぐ目の前から消える。
正味二ヶ月の間、文字通りとてもこき使われてきた。
「俺、人使いが荒いだろ?」
関係性に多少慣れてきた頃だった。
そう言ってニヤリと笑う彼に「どうぞ、何なりと仰せのままに。」と澄ました顔で言ってみせ、ひとまずは笑いを取った。
つかみはまずまずだ。
先に惚れたのはたぶん私の方。
まず、的確で無駄のない、美しい仕事ぶりに惚れた。
私が求めていた理想のボス像にこの上なく近い人だったからだ。
愛想のなさは対外的にはマイナスだろうが、私の得意とする愛嬌でカバーできる範囲だろう。
そう思った矢先のことだった。
予想だにしない彼のおっちょこちょいが顔を出し、盛大に笑かしてくるではないか。
ズルい。かなりズルい人だ。
別れが近いことに先に気付いたのは彼の方だった。
「◯◯さんとも来週の水曜日が最後だな。」
腰にくる妙にいい声で、彼がそう言ったのだ。
声の善し悪しにこんなに気持ちを揺さぶられたのは初めてのこと。
恋は性欲だと言われる由縁が体感としてわかってしまった瞬間だった。
人づてには恥ずかしいくらい褒めてくれているらしいが、私はまだ気付かないふりを続けている。
今後の心模様はどうなるだろうか?
曇りのままなのか?
雨になるのか?
それとも晴れるかな?
晴れたらいいな。
こんなに晴れが恋しいのはいつぶりだろう。
遥か昔、幼稚園の遠足の前の日にてるてる坊主を作ったあの日以来かもしれないな。
お題
曇り
3/24/2025, 5:24:48 AM