七分丈 似合わないよの 一言で ばっさりきられ 今は半袖
天国は内側にあるだろうか。地獄は外側にあるだろうか。ある人にとって天国とは己だけが存在する心の内、自室の内、暗闇の内だ。またある人にとってはそれが地獄だ。ある人にとって地獄とは己の外、海の外、世界の外だ。またある人にとってそれが天国だ。天国と地獄は存在するだろう。一つは天国であり、かつ地獄でもあるもの。もう一つは地獄であり、かつ天国でもあるもの。混じり合って一つになったものが見せ方を変えて二つある。そのスリットを通して差し込む二つの光、風向き、水の流れの交差点が私たちの生きる世界だろう。
お題:理想のあなた
『ピエール・ロティ』
東洋人は目が細く、オケアノスにうっすらと青々とした土と葉を盛りつけたような島に住んでいる。背は小さく、不思議なマナーを持っている。それでいて救世主を知らず、ゆえに彼らは善行や悪行を知らず、信仰を知らず、自然と共に暮らしている。鉄の船で海を西から東、北から南となんどもさまざまな国の港による。まるでお針子がレースをフリフリと切り分けるように私たちの船はどの鋏よりも鋭く、波と嵐を切り裂いた。私は欄干からこれからいくパラディソに思いを馳せた。きっと不思議な力がある。パリよりも赤道に近いここは太陽に近く、海はますますキラキラと光を放つ。シルクロードに比肩してここはシルクでできた海と呼ぶにふさわしい。私は東洋の島で理想の妻を娶る。人形のように小さく、椰子の葉のようにたおやかな、理想の妻を。
明日世界が終わるなら
レジャーシートって意外に100均で売ってないのね。
明日に備えて私は100円ショップに来ていた。シャッターがくしゃくしゃに丸められた裏紙のようにひしゃげてたおかげで簡単に入ることができたし、ほとんどものは掻っ攫われていたけど、カレンダーや壁紙なんかは残っていたからレジャーシートは残ってるものだと思っていた。
まぁ、いいか。明日くらいは泥だらけで、虫に食われても構うものですか。
私はアールグレイのティーパックと魔法瓶を持って家に帰った。
明けて、外に飛び出して、土手の草むらの上に寝そべって魔法瓶を傾ける。
近くで空を仰いでる見知らぬ人の顎のラインがエロかった。
なかよくなりたくて、私はそっと這い寄った。
もしも未来を見れるなら
ある少女は世界を呪っていました。
なぜなら世界が彼女を呪っていたからです。
世界のありとあらゆる人は火と鉄の武器を持ち、夜闇よりも深き森へと彼女を追い立てました。
深き森は彼女を惑わせる濃霧と闇で翻弄し、木々の隙間で舌なめずりをするフェルトロと呼ばれる猛獣で彼女を怖がらせました。
彼女は必死に、列して追い立てる火から、立ち込める無明から、痩せた獣から、森のあらゆる死から逃げて、逃げて、逃げて。そして、湖に辿り着きました。
飛び込むようにして湖の岸に這いつくばると、月明かりに照らされて水面に自らの顔が映るのです。
なんと醜く滑稽でしょう。なんと哀れで無様でしょう。
きっとこれが劇ならば観客たちは大笑いするでしょう。
凱旋するナポレオンを迎えるように高らかに、首を落とされるマリーアントワネットを待ち望んでたように喝采して。
少女はそれが許せませんでした。
あぁ、もしもこの湖面に映るのが世界の未来であったなら。彼女はそう願いながら、自らの首を持っていたカミソリで切りました。
湖に飛び込んで、涙すらなく、ただ狂奔する怒り、怒涛の憎悪、滂沱の苦しみを孕みながらそこに沈んでいきます。
きっと湖面には火を持ったものどもの未来が映るでしょう。ドス黒く尽きぬことのない血の海。
少女は水底から見たことでしょう。未来で、最後の一人となった人類の末裔が孤独のすえに世界を呪うところを。