朝、同じバスに乗る君
イヤホンをしながら、少しユラユラしている君
眠たくなったのか、スマホを持ちながらウトウトしている君
毎朝訪れる幸せな時間
───君に話しかける勇気をください
-今一番欲しいもの-
名前を呼ぶと音が聞こえるんだ
あの子の名前は鈴を転がしたような音
あの人の名前は水が流れるような音
──彼の音は私の心臓の音で聞こえない
私の名前はどんな音がするのだろう
-私の名前-
僕の視線の先には君がいる。
キラキラと瞳を輝かせてご飯を食べるところや、笑顔を絶やさないところが好きだ。
そんな君の、視線の先にいるのは僕じゃない。
僕だったら良かったなんて何回思っただろう。
今日も視線は交わらない、
君が逃げていくから。
そして顔を赤くさせて僕じゃない誰かを見てる。
僕は、そんな君を見ていたくなくて本の世界に逃げるんだ。
その繰り返し。
─────だったのに
勇気を振り絞った僕の視線の先には、顔が真っ赤な君がいた。
-視線の先には-
ほぼ布切れのような服
──宝石の散りばめられた綺麗なドレス。
皆で体を寄せあって寝る毎日
──暖かいお布団と、大きいお家。
ずっとお酒を飲んでるおじさん
──格好いいお父様と優しいお母様。
痣を隠しきれていないお姉ちゃん達
──お菓子を作ってくれるメイド達。
私は夢を見ているの?
こんなことが起こるのね。
あの子達は今頃どうしているかしら。
────私だけ
──────────私だけ
『私は幸せ者よ』
私は心に蓋をすることにした。
-私だけ-
君に連れられてここでピクニックをしたんだよ。
覚えてるかな?
あの日は雲ひとつない青空で、満開の花畑がすごく綺麗だったんだ。
君がお花で冠を作ってくれてね、嬉しかった。
それと友達と作ったんだって、クッキーを持ってきてくれたよね。
僕の好きなチョコレートが入ったクッキーでね、
すごく美味しくて僕が全部食べちゃったんだ。
そんな僕に、驚きながらも笑顔でまた作って来るねって言ってくれて、
その時僕ね、君とずっと一緒にいたいって思ったんだ。
─────ねぇ、もう一度笑顔を見せて
-遠い日の記憶-