「…いったい何が悪かったのかな…」
夕暮れ時の某カラオケ店。
そこで大量に買ったグッズの開封の儀を行っていた友人は、あらかた開けきったあとでそうぼやいた。
「ねぇ、あなたとわたし同じだったよね…?」
「いや、まあ…うん」
「だったらなんでぇ…?!」
「なんでと言われてもこればっかりはねぇ?」
絶望するのも無理はない。
いくつもバイトを掛け持ちして、一生懸命ためたお金でグッズを購入したのにも関わらず、ひとつとして彼女の推しが出なかったのだ。
かくいう私は購入した半分以上が推しだったというミラクル。
怨まれるのも仕方ない。
「こんなに愛を積んでるのに…!!」
「あー…、たぶんあれだ。
その愛の重さに世界が追いつけてないんだよきっと」
知らんけど。
雨が降っている。優しい、柔らかな雨だ。
ぬくもりさえ感じるその雨は、まるで彼女を優しく包みこんでいるかのよう。
その美しく神秘的な姿に、彼女に声をかけようとした私は息を呑んだ。
2〜3分見続けていただろうか。
ふとこちらを向いた彼女と視線が合った。
「あー!おそーい!!…は、ふぁ、ぶぇっっくしょい‼!!!
だぁー‼くしゃみでた〜!ずびっ…」
「うん。あんたに神秘さを感じた私がバカだった。
感動を返してくれ」
「は?」
光が見えた気がした。
暗闇の中に差す、一筋の光が。
幻かもしれない。もしかしたら何かの罠かもそれない。
でも、それでも僕はその光に向かって必死に走った。
闇に囚われ、気が狂いそうになっていた僕にとって、それは救いの光だったから。
だからどうか…、どうかお願いします。
たどり着いたその瞬間に消えてしまいませんように。
「うーん…うーん…」
「…」
「うーん…えぇえ…?」
「…あのさぁ、さっきから何を一人で唸ってるの?」
眉間にシワを寄せてうんうん唸る僕。
はじめこそスルーされていたものの、10分たった今も続くそれにいい加減嫌気がさしてきたのか、友人が呆れたように聞いてきた。
「いやぁ、あのさぁ」
「おう」
「今日のテーマが【哀愁をそそる】なんだよ」
「テーマ?」
「そう。出されたテーマで文章作るんだけど【哀愁をそそる】ってなに?どこで使うの?誘うじゃだめなの?」
「いや、しらねぇよ」
「ひどッッ!!こっちは一生懸命考えてるのに!!!
もぉおぉ!!【哀愁をそそる】って何なんだよ!!
調べても誘うとか漂うとかしか出てこないんだよぉ!!
誰かー!おつむ弱者の僕に教えてくださーーい!!!」
「やかましい!!!!!」
《どうして君はそんななの?》
鏡の中の自分が言う。
《いつまで子供のままでいるつもり?
自分がいい年をした大人だってわかってる?》
矢継ぎ早に放たれる言葉に、僕は何も言い返せない。
だってその通りだからだ。
本当に自分が嫌になる。
精神年齢はいつまでも子どもで、人に言われるまで行動できず、相手の顔色ばかりをうかがう日々。
《ボクが君に取って代われたらいいのに》
「…僕も、君に変わってもらいたいな…」
こんな自分はいなくなってしまったほうがいい。
そんな思いをこめてつぶやくと、鏡の中の自分は一瞬驚いた表情をしたけれどそれはすぐに憎しみに満ちた表情になった。
《――…ああ、本当に。ほんとうにどうしてかな。なんで、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!!
どうしてなんの役にもたたない根暗な君が外にいて、このボクが鏡の中なんだ!!!!!!!》