両片思いの男子がいた。
「今日はありがとう」
デート(?)終わりに2人で夜道を歩いてると、彼が急にそう言ってきた。
「めっちゃ楽しかったー!」
背伸びして買ったミニスカートも、この日のために練習した髪型も、全部君のためだよ。
…って言いたいなぁー…。
「ねぇ」
「ん?」
でも、思いは我慢ができなかったらしい。
「私…もう準備できてるし、待ってるから」
君に素直な気持ちを伝えてみた。彼は照れたり、誤魔化したりしないで、穏やかな顔でこう答えた。
「待ってて」
2人の間にほのかにあたたかい風が通り過ぎていく。
それは、2月の少しずつ春を感じた日だった。
『待ってて』
えっほ えっほ えっほ えっほ
――TikTokを撮り終えた私と好きな人。
「てか、アンパンマンって粒あんなんだ。正直こしあんかと思ってた」
「それ思った」
淡々と会話するぎこちなさに吹き出しそうになるが、一緒にTikTokを撮ってくれて嬉しい。
「ねぇ」
「ん?」
「バレンタインチョコあげる」
「え!?逆チョコだけど、いいの?」
逆チョコ、っていうワードは聞いたことあったけど、まさか実際に、しかも私が経験すると思わなかった。
「開けてみて」
丁寧に包装されたラッピングを開けると、そこにはチョコの色をしたマカロンが2つ入っていた。
「あ…帰ったら、意味、調べてみてね」
「え?」
「それじゃ」
すぐに姿を消してしまう彼の背中を呆然とみて、顔を赤くしながら思う。
この意味、知ってるんだけどなぁ…。
『特別な人』というありがたい肩書きをもらったところで、私の心は弾む。
「えっほ えっほ えっほ えっほ 君の事が好きって伝えなきゃ…」
そう独り言を呟きながら、彼の背中を追いかけるのだった。
『伝えたい』
そろそろ卒業だ。
「受験生だから勉強が第一だけど、やり残したことがあったら後悔しないようにな」
担任に朝のHRで言われた。
後悔しないように、ねぇ。
思えばこの場所はたくさんの思い出がある。
入学式で教室までに迷ってたらクラスの子が助けてくれたこと。好きな人に下駄箱で告白されたこと。体育の時間に転んで足を挫いたこと。
とにかく、たくさんだ。
「有紗はなんかやり残したことある?」
入学式で助けてくれた親友にそう聞いてみた。
「やり残したことー?」
んー、と数秒迷った末、彼女ははっきりと答えた。
「強いていうなら思い出不足だな」
「なんで?」
「当たり前だけど、まだ卒業まで30日もある。“しか”じゃない“も”だよ。残りでどれだけの思い出をつくりきれるかって、大事だと思う。まぁ、受験もあるけど」
そうだよなーと言いながら私は思う。
この場所で、この30日間で、3年間私と過ごしてくれたこの校舎に最大の恩返しをしてあげたいと思う。
『この場所で』#実話(※本名ではありません)
この前、いつもテストで満点に近い点数をとってる優等生が60点を切っていた。
私は不思議に思って彼に話しかけてみた。
「珍しいね、いつもは高いのに」
ちらりと視線をこちらに向けて、すぐに視線を解答用紙に戻すと、彼は口を開く。
「努力不足かな」
「どういうこと?」
「ほら、人には限界があるだろ?ていうか、人によって高い低いが違うし。ほら、田中も自分が苦手教科でこれぐらいとってれば喜ぶよな」
「…確かに」
「でも、調子悪い、とかじゃない。今回は勉強サボってた。次はあげるって決めてる」
痛感した。
彼も人間だ。努力しないと落ちるし、努力すれば伸びる。
私達とは違う、天才だ、という偏見を勝手に抱いていた。
誰もがみんな、完璧な人間ではない。
でも、少なくともみんな得意不得意があって、それを理解しながら生きてる、のだと思う。
『誰もがみんな』#実話(※本名ではありません)
「卒業式は絶対来てね」
と、一個上の姉に言われた。
反抗期真っ只中の私は何度か断ったが、結局行くことになってしまった。
なんか、あげた方がいいかな。
迷いながらも、姉の大好きなカーネーションで花束を作ってもらうことにした。
花の意味なんて興味ないけど、色々面倒くさいことになったら嫌なので、ちゃんと調べることにした。
結論としては、ピンクになった。ありがとうを伝える時に使うらしい。
当日、姉に渡すと、涙ぐみながら「ありがとう」と言ってくれた。
当然だ。私が一生懸命調べて、なけなしのお小遣いを出して買ったし、喜んでくれなきゃ困る。
そのことを友達に話すと、友達は口を揃えていう。
「お前お姉さん好きすぎだろ」と。
やっぱりそうかもしれない。
花束を作ろうと考えた自分に感謝だな。
『花束』