絆
銃声が響いた。日常が終わった。
普段なら耳を澄まさずとも聞こえるはずの喧騒もなく、全てを上から塗り潰したそれは、空砲だった。
緊張で静まり返った大地に銃声が波紋状に広がり、周りで行く末を見守っていた観客は、皆にそれが伝播したかのように思い思いに叫んでいた。
銃の持ち主からできるだけ遠ざかろうと走る。我先にと駆け抜ける何者かを横目に、悲鳴を横切って、砂を蹴った。地面は硬く、柔らかかった。風は微妙に向かい風だった。
手に持った赤い筒を、仲間に手渡すまで止まれない。
汗が右目に入った。
風で砂が舞っている。
実況席の前を駆け抜けて、並んだスピーカーを追い抜いて。まだ銃声が反響している熱暴走を握りつぶして。
体を打ちつける何かを掻き分けた先で、友人が手を後ろに出して待っていた。
ああ、今のところは三位か。
自分の息遣いが聞こえた。
無責任に、これなら大丈夫だろうと思った。
テイクオーバーゾーンを抜けた後、観客になって、叫ぶ。
大好きな君に
拝啓、大好きな君に。
放課後の教室で雑巾を絞った時、夕焼け空を透かした妙な色味のカーテンが作る影に隠れたそれを、いまだにずっと大切にしています。
階段の踊り場で転んで、リコーダーを落として急いで拾ったこともありました。廊下を突き抜ける風に合わせて、無限にあいこになるじゃんけんを繰り返して、ケタケタと笑っていたこともありました。オリジナルの小説とイラストを丁寧に書き殴った複数冊のノートは、もう燃えて無くなっているのでしょう。しかしそのずっと前の話。だれかの置き傘の一つが、あなたの手に渡りました。私はそれがとても憎かった。
公園の轍を通って枯れ葉を踏むだけで、靴底に張り付いた憂鬱な感情ばかりが停滞しているこの頃です。
敬具、昔取り憑いていた背後霊より。
ひなまつり
撮影してみた怪光線は、現像したら映らなかった。よだかの星が落ちた空は、いつにも増して綺麗に見えた。
双子の黄緑色の星が、カクカクとした挙動をとりながら頭上を旋回している。銀色のパラボラアンテナをそちらに向けた。シャッターを押す。
現像できた。今度は映った。
連絡手段を持ってるわけじゃないから、ようやく撮れたこの写真を見せるのは、一週間以上も先になる。
こうしてみると、一週間は長い。
霰をばら撒いた空を、もう一度。シャッター音が、ベランダに響いた。
欲望
一目見た時に確信した。今まで感じたことのないエネルギーが血管を迸り、体に熱を与え、呼吸を早くさせる。
電信柱が邪魔だ。
黄色と黒のストライプが、ペットの粗相に威嚇するポスターが邪魔だ。防犯灯に照らされた漆黒で艶やかな髪も邪魔だ。距離が邪魔だ。鞄が邪魔だ。腕が邪魔だ。服が邪魔だ。
真っ直ぐに、ただ純粋な汚辱を通過して、愛を育めばいいと思う。
遠くの街へ
全略。
列車より。愛を込めて。