祈りの果て(オリジナル)
いじめにあっていた小学校時代、いじめっ子がいなくなってしまえば良いのにと、神に祈った。
学校が荒れていた中学時代、不良の暴力に対する恐怖から、先生の言うことを聞かないヤツらにはバチが当たれば良いのにと、神に祈った。
思春期の高校時代、友達と秘密にする約束で好きな人の教え合いっこをしたところ、クラス中にバラされ、裏切りによるショックを受けた。「釣り合わない」と陰でクスクス笑われて、憎悪が募った。死んでしまえばいいのにと、神に祈った。
大学時代、付き合っていた彼氏が三股していたうえに貸した金を持ち逃げした。こんな最低な人間は今後他の人にも迷惑しかかけないし、生きている意味なんてあるんだろうか。もっとひどい人間に同じような目にあわされるか、天罰が下れば良いのにと、神に祈った。
就職した会社は、パワハラとセクハラが酷かった。残業も多い激務なブラック企業だったので、毎日会社に行くのが嫌だった。電車が事故で止まれば良いのに、あるいは職場が火事で燃えて、全て無くなってしまえばいいのにと、神に祈った。
祈りの果てに。
結局、何も起こらなかった。
誰も、呪いのような祈りを、聞き届けてはくれなかった。
でも、それで良かったと思う。
これしきの恨みで祈りが叶ってしまっていたら「己のせいで人が死んだ」と罪悪感に苛まれるところであった。
どれも、今思えば死に値するほどの事ではない。
誰もが夢想する類いのこと。
祈りでは、何も叶わないと知った。
叶えたい事があるのなら、自ら動かなければ。
だから、
動こうと思う。
私の唯一の友であり、心の安らぎである飼い猫を無惨に殺したあいつ。
未成年だからと罰せられなかったが、反省もせずに同じ事を何度も繰り返しているあいつ。
死には死を。
心の迷路(オリジナル)
物心ついて25年。
10代の頃からずっと推してきたアイドルが、結婚を発表した。
まかり間違ってもお近づきになったり、実際の恋人や旦那になってくれたらなんて期待する事は微塵もなくて、ただただ、己の理想で、格好良くて、大好きだった。
子供の頃は親と、大人になってからは友達とコンサートに通い、ブロマイドや円盤やグッズを、出来うる限りの最大限で買い、推しに課金してきた。
適齢期を過ぎても結婚の話が出ず、我々ファンを今まで充分に幸せにしてくれたのだから、今度は彼が幸せになって欲しいね、と、ファンの友達と話したりしていた。
だから。
突然の結婚発表には、めちゃくちゃびっくりして。
良かったねって嬉しくて。
なのに、
涙が。
止まらないんだ。
悔しいわけではない。
悲しいわけでもない。
寂しいわけでもないと思う。
そして、なんたることか。
嬉し涙でもない事がわかるんだ。
だって、こんなにも心が痛い。
温かいもので満たされているのも間違いないのに。
幸せになって。
幸せになって。
そう心から願うのに。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
祝福するよ。
おめでとう。
今後も変わらず応援するよ。
結婚しても好きな人。
でもごめんね、今だけは。
しばしこの涙を、思う存分吐き出したいと思うんだ。
ティーカップ(オリジナル)
やあ、こんにちは。久しぶりだね。
僕のこと、覚えていてくれた?
そうか、だから会えたんだよね。
ありがとう。
久しぶりにとても温かいよ。
気持ちが良いねぇ。
いつもこんなだと良いんだけれど。
ちょっと繊細な僕だから、やりにくいのかもしれないねぇ。
でも、だからこそ、大事にしてくれているんだよね。
ありがとう。
お客様を喜ばせる事ができたかな?
だとしたら嬉しい。
僕はお役に立てたかな?
だとしたら嬉しい。
また、近いうちに、会えると良いな。
あっ!!!!
ガシャン!!!
ああっっ!!!
ぼ、僕はもうお役に立てないかい?
飲み口のところが割れて、取っ手が取れてしまった。
せっかく出してくれたのに、ごめんよ。
そうか、もう僕は君とお別れなんだね。
楽しい思い出の中に、少しは残れていると良いなぁ。
今までありがとう。
じゃあね。バイバイ。
寂しくて(914.6)
ひとりでいるのは嫌いじゃない。
ひとりで飲食店に入れるし、孤食も気にならない。
複数人でないと行けないところは行くのを諦める。
それが別に嫌じゃない。
寂しさを埋めるために友達や恋人をつくるのはなんか違う気がするし、失礼な気もする。
「誰でも良かった。何人目かでつかまったのが自分だった」などと知るのは、自分を必要としてくれたと期待していただけに、ちょっと悲しくなる。
最も強く孤独の寂しさを感じるのは、そこに多くの人がいて、自分だけが取り残されて、ぽつんと独りになっている時のように思う。
だから、初めから独りを選ぶ。
自分で選んだ独りであれば、寂しくないから。
入りたくて入れないのは辛い。
なら、初めから入りたいと思わなければいい。
今は家族がいるので寂しくはないが、家に独りになったらちょっと寂しいかもな、とは思う。
同じものを見て、異なる感想を言いあって、あるいは共感を分け合って。
それは、心を満たす、大事な時間だと思うから。
寂しくて、すぐに周りを巻き込む人がいるけれど、とても自分にはできないので、正直ちょっと羨ましい。
心の境界線(TOV)注:腐向け
出会った当初、馴れ合わないのはお互い様だった。
レイヴンは成り行きで一緒に旅をしていて、何をしている何者かもわからない、胡散臭いおっさんだった。
俺の方に秘密はないが、特に話す機会も必要もなかったし。
仲良くなる必要もなく、特に知りたいとも思わなかった。
それが、いつからだろう。
レイヴンが、あからさまに線を引いているのがわかるようになった。
旅が長くなるにつれ、皆の背景も正体も否応なくわかるようになっていて。
で、おっさんは?という風になるのは当然だろう。
確かに正体は判明した。ギルドの人間だと。
けれど。
まだ何かある。
知られたくないのか、時々のらりくらりと話を逸らす。
とても心を開いているような親しげな雰囲気で、煙に巻く。
(何を隠してやがんだ、おっさん)
隠されると、逆に気になって仕方がない。
自分は本来、来るもの拒まず、去るもの追わずで、人が嫌だと思うものまで暴こうとするタチではない。
なのに。
その線の内側に何があるのか。
どういう人間ならその内側に入れるのか。
知りたいと思ってしまう。
自他の境を常に意識するという意味での境界線は大事だろう。
しかし、心を閉ざしている境界線は問題だ。しかも、何か暗いもの、もしくはとても柔らかいものが隠されているようで、見ていて少しハラハラするのだ。
(それを明かしてもらえる人間にゃ、まだ足りねぇってことなのかな)
歳の差も、経験の差も、知識の差も、かなりある。
今の自分が何か言ったところで、明かしてくれるビジョンは全く浮かばない。
己の不甲斐なさを自覚し、ユーリは肩を落とした。
とはいえ、色々と、追いつけないとは思っていない。
(いつか、暴いてやるからな)
内心、そんな決意をしていたのであるが。
その内側にとんでもないものを隠しており、もっと先に暴いておけば良かったと後悔する日が来ようとは、この時のユーリに知る由もなかった。