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10/26/2025, 1:40:54 PM

終わらない問い(TOV)注:ED後&ネタバレ&虚空


キャナリがもし生きていたら。
今でも時々夢想する。
それはたぶん、実現がとても難しい仮定の話。
その場合、確実に自分は死んでいて。
それでも、己が生き残るより、キャナリの方が、今よりマシな結末を迎える事ができたんじゃないかって。
そう思ってしまうんだ。

アレクセイが狂う前に止められたかもしれない。
ドンは死ななくて済んだかもしれない。
世界がこんな風になる前に、もっと何か別の方法があったんじゃないかって。

世界をこんな風にしてしまう片棒を担いでいた。

自分が生き残った意味は、あったんだろうかって。


こんな事を思う事自体、キャナリに知られたら烈火の如く怒られる、何なら壁に矢で縫い付けられるであろう事は想像に難くない。

それでも。

ごめん、キャナリ。
助けられた命だったのに、死人として生きてしまった。
弱い男でごめん。
過去はもう変えられない。

でも、未来は変えられる。
意味はなくとも、生きていく。
もらった命。助けられた命。仲間に預けた命だから。

いつか会えた時、皆に胸を張れるように。
これからを見ていて欲しい。
地位も能力も人脈も、持てる限りの力を尽くして前に進んで行くから。


…………。


あ、でも、やっぱり、今この時隣にいて、ともに歩んでくれていたら、どんなにか……。


ぐるぐると、とめどなく思考が流れる。
三徹で、だいぶ限界が来ているようだ。

レイヴンは帝都の己の執務室で、深い深いため息をついた。

この山盛りの書類、一緒に捌いて欲しかったなぁ。

10/25/2025, 4:12:27 PM

揺れる羽根(TOV)注:腐向け

報酬を受け取り、露天商が立ち並ぶ賑やかな通りを歩いている時だった。
ふと、目についた店があった。
なんとはなしに近づくと、そこには色とりどりの羽根をモチーフにしたアクセサリー類が並んでいた。
七色の羽根がゆらゆら揺れる耳飾り、白い羽根のブローチ、荷や髪を縛るのに良さそうなゴム紐や、剣の柄につけられそうな小物などなど。
己の格好には基本無頓着で、性能と使いやすさで装備品を選ぶ自分には全く縁のない店である。
が、ユーリは惹かれた原因である一つの品を手に取った。
若い店主が、嬉しそうに声をかけてくる。
「いらっしゃい!お客様お目が高いですね!そいつはデザインはもとより、風魔法も付与されていて、武器につけても良いお品ですよ!」
指でつまんで持ち上げると、羽根がゆらゆら揺れている。武器につけると戦闘時は邪魔かもしれないが、歩くたびに羽根が揺れる姿を想像して、素直に良いな、と思えた。
「ユーリ!」
突然見知った声に呼ばれ、我に返った。顔を向けると遠くにカロルがいて、手を振っていた。突然の遭遇を喜び、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ユーリも依頼無事に終わったんだね。良かった!僕もちょうど戻るとこ!」
「ああ」
「わー!綺麗な羽飾りだね。え、それユーリがつけるの?なんか、らしくないけど、似合うと思うよ!」
「いや…」
「わ、この七色の羽飾りなんてジュディスに似合いそう!白い羽根はエステルっぽい!リタなら赤かな…パティは青で…ナンだったら黄色かなぁ…」
ナンのあたりで小声になるカロルであったが、隣に立つユーリから何の反応も返ってこない。
「ユーリ?」
目をやると、ユーリはなぜか、呆然とした様子で固まっていた。カロルの声で我に返り、羽飾りを持っていない方の手で、自身の顔を覆った。
「どうしたの?」
「いや。何でもねぇ…」
ユーリは手にしていた羽飾りを、そっと元の位置に戻した。
黒い羽根で、光に透かすと不思議と綺麗なエメラルドグリーンに光るそれ。
ユーリは無言でスタスタと店を離れた。
「お、お客さん?!」
「ユーリ?!」
カロルが慌てて追いかけてくる。
顔が熱い。
顔を見られたくなくて、追いつかれない程度の速足で歩く。
羽根の似合う仲間など沢山いるというのに。
カロルが言うまで、その事に全く気づかなかった自分に唖然とした。
1番に想像したのがあのおっさんだったとは。
(いや、レイヴンなんて鳥の名前なのがいけねぇ。そうだ、風魔法付与ならおっさんを連想しちまうのもおかしくねぇ。そうだ、そのせいだ)
宿に戻るまでの間、そう自分を納得させて気持ちを落ち着かせたものの、しばらくは八つ当たり気味にレイヴンに対する当たりが強くなり、皆に訝しげな視線を向けられる事になるのであった。

10/25/2025, 1:12:30 AM

秘密の箱(TOV)

その瞬間は時々やってくる。
例えば、野営時。フレンが夕食を作ろうと言いだして皆が阻止しようと一致団結して事に当たっている時。
またある時は、買い物で欲しいものが手に入ってウキウキなカロル君やリタっちを微笑ましく見つめるユーリやジュディスちゃんを見た時。
心の奥底から、嬉しいような、寂しいような、羨ましいような、嫉ましいような、温かいような、痛いような、楽しいような、苦しいような。
死人にあるまじき熱さをともなった感情が迫り上がってくる事が。
無くしたはず、無かったはずのもの。
誰にも見せないように、自分も見ないようにしてきたもの。
瞬間瞬間、とっさに蓋をして仕舞い込んできたそれらのものが、近頃、許容範囲を超えたのか、漏れ出てくる事があり。
「いかんいかん」
独り言を言ったつもりだったが、足元にペシリと柔らかいツッコミが入り、視線を下げるとラピードと目が合った。
「わんこ…」
決して会話ができるわけではないのだが、感情の機微を人より鋭く察しているような気がする。気をつけないと色々とバレてしまいそうだ。
「どったの?あれ?おっさんの足が遅くて心配してくれちゃったとか?大丈夫よ〜。しんがりの役目、ちゃ〜んと果たしてるからね〜」
頭を撫でようと手を伸ばしたが、するりとかわされた。むむむ、やるな。
ラピードは胡散臭いといわんばかりの態度と視線をこちらに向けつつ、隣を同じ速度で、時々尻尾をこちらに当てながら歩きだした。
「ちょ、何、わんこ、歩きにくいんだけど?!」
口では文句を言っていたけれど、本当は少し嬉しかった。少し離れた距離で楽しげに談笑する皆を眺めていて、また少し溢れてしまいそうになってぎゅうぎゅう蓋をしようとしていたところだったので。おかげで別のものに転化して細々と流す事に成功したような気がする。
(わんこには見えてるのかね)
押し込めた感情の箱が。秘密の箱が。
(いや、単に皆から遅れそうだから速く歩けと発破をかけてる可能性もあるか…)
そちらの方でありますように、と願いながら、自分でも本心がどちらなのかわからないレイヴンであった。