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秘密の箱(TOV)

その瞬間は時々やってくる。
例えば、野営時。フレンが夕食を作ろうと言いだして皆が阻止しようと一致団結して事に当たっている時。
またある時は、買い物で欲しいものが手に入ってウキウキなカロル君やリタっちを微笑ましく見つめるユーリやジュディスちゃんを見た時。
心の奥底から、嬉しいような、寂しいような、羨ましいような、嫉ましいような、温かいような、痛いような、楽しいような、苦しいような。
死人にあるまじき熱さをともなった感情が迫り上がってくる事が。
無くしたはず、無かったはずのもの。
誰にも見せないように、自分も見ないようにしてきたもの。
瞬間瞬間、とっさに蓋をして仕舞い込んできたそれらのものが、近頃、許容範囲を超えたのか、漏れ出てくる事があり。
「いかんいかん」
独り言を言ったつもりだったが、足元にペシリと柔らかいツッコミが入り、視線を下げるとラピードと目が合った。
「わんこ…」
決して会話ができるわけではないのだが、感情の機微を人より鋭く察しているような気がする。気をつけないと色々とバレてしまいそうだ。
「どったの?あれ?おっさんの足が遅くて心配してくれちゃったとか?大丈夫よ〜。しんがりの役目、ちゃ〜んと果たしてるからね〜」
頭を撫でようと手を伸ばしたが、するりとかわされた。むむむ、やるな。
ラピードは胡散臭いといわんばかりの態度と視線をこちらに向けつつ、隣を同じ速度で、時々尻尾をこちらに当てながら歩きだした。
「ちょ、何、わんこ、歩きにくいんだけど?!」
口では文句を言っていたけれど、本当は少し嬉しかった。少し離れた距離で楽しげに談笑する皆を眺めていて、また少し溢れてしまいそうになってぎゅうぎゅう蓋をしようとしていたところだったので。おかげで別のものに転化して細々と流す事に成功したような気がする。
(わんこには見えてるのかね)
押し込めた感情の箱が。秘密の箱が。
(いや、単に皆から遅れそうだから速く歩けと発破をかけてる可能性もあるか…)
そちらの方でありますように、と願いながら、自分でも本心がどちらなのかわからないレイヴンであった。

10/25/2025, 1:12:30 AM