全身に激痛が走り目が覚めた。仰向けで目だけ動かして周りを見ると、不安そうな表情をした両親と、医師と看護師がいた。なるほど、そうか。僕は失敗したのか。生きているのは奇跡だと言われたが、僕にとっちゃ奇跡でも何でもない。ただの地獄だがな。なぜこんな時だけ運がいいのだろうか?なぜこんな時だけ神は救うのだろうか?涙が込み上げた。
「よく生きてたね。頑張ったね…」
「生きていて良かった…!」
…僕の気も知らないでそんなこと言うな。涙を抑えようと天井に目を向けた。ああ、駄目だな。真っ白に統一されたそれを見ると、僕の居場所などどこにもないような気持ちになる。点滴と、苦しみの匂いがした。
もし晴れたら、明日は遠回りしよう。ひっくり返ったカナブンがいたら、そいつを助けてやろう。朝のまだ少しひんやりした空気をめいっぱい吸って、鼻歌を歌う。夏休みといったら虫取り!元気に駆け回る子どもたちを横目に見ながら、僕は部活に向かおう。…そうだ!部活が終わったら、寄り道してラムネでも買おう!懐かしいな、こうやってあいつらと一緒に歩いたな。ザリガニ釣りに行ったな。なんやかんや楽しい記憶ばっかだな!…そういえば、一時期話さない時期があったな。あの日は、寒い冬の日だったかな…。夏の空気は、色んな記憶が呼び起こされる。図鑑を開いたように、僕の脳に鮮明に映る。そのどれもが、僕にとっては大切な思い出である。大人になって、いつか、あいつらと疎遠になっても思い出すことがあるのだろうか。少し悲しい気持ちになる。離れたくない。今だけ楽しもう。あいつらとたくさん馬鹿なことやって、笑い合おう。僕は人の顔と名前を覚えるのが苦手だから、覚えてないかもしれないな!と無理矢理呟いて、込み上げてきたものと感情を押し殺す。見知った後ろ姿に向かって声をかける。
「先輩、おはようございます」
珈琲を片手にページをめくる。窓から夕日が差し込む橙色の部屋。人々の雑踏から外れた、青の深く冷たい静寂に包まれたこの空間は、僕だけの世界だ。珈琲の眠気を誘うような優しい香りと、微かに聞こえるページをめくる音だけが、今この部屋にある。僕はこの雰囲気が好きだ。だから、一人でいたい。