「〝夢〟がタイトルにつく歌って多いよね」
彼女はそう言って空を見上げた。
低く重く広がる濃い灰色の雲は、今にも雪を降らせそうだ。彼女はそんな空の色を歓迎するかのように唇の端に笑みを浮かべて、「クソみたいな世界に、みんな何を期待してるんだろ」とあまり綺麗でない言葉を吐いた。
「あなたは何か夢は無いの?」
私の言葉に彼女は振り向いて、ニカリと白い歯を見せる。
「寝て見る夢は別にいらない。現実の夢は·····一つ一つ叩き潰してしまいたくなる」
彼女の目が微かに伏せられた事に、気付いたのは私くらいだろう。私は彼女に近付いて腕を差し出す。
「私の夢はあなたの願いを叶えることだよ」
彼女は一度瞳を大きく見開いて、そして小さく肩を竦める。
「だったら·····ここにいる連中みんな××してみなよ」
私は彼女を見つめ、満面の笑みで応える。
「いいよ」
彼女の夢が私の夢。
彼女が夢を見ないというのなら、そんな彼女のありとあらゆる願いを叶えてあげるのが、私の夢だ。
END
「夢を見てたい」
永遠に変わらないものなんて無い。
子供は成長するし植物は芽生え、枯れる。
永久凍土だって溶け始めているし、太陽だって寿命が計算されている。
星の位置も変わり続けて、数千年後には今とは全く違う星座が出来ているだろう。
ずっとこのままなんて有り得ない。
それでも不変を願うのは、あまりに早い変化のスピードに、心がついて行けなくなるのが怖いからだろう。
変わり続けるものばかりの中で、変わらないナニカに尊さを感じているのかもしれない。
人の心だって変わっていくというのに。
END
「ずっとこのまま」
モコモコモコモコ。
コート、帽子、マフラー、手袋、ブーツ。
シルエットが倍になるくらい膨らんだ体が丸くなってしゃがんでいる。
「動きにくいでしょ、ソレ」
「慣れりゃどってことないよ」
「そうは見えねえけど」
「寒さと動きにくさじゃ寒さの方がこたえるんだよ、この歳になると」
「アンタいっつもお洒落なのに」
「そうも言ってられなくなるんだよ」
「じゃあとっとと仕事終わらせて帰ろかね」
「お前がコーヒー奢ってくれたら少しは動けると思うけどね」
「いつもと逆だな、これじゃ」
「あはは、ホントだ」
立ち上がった彼はやっぱり普段の倍膨らんでいて。
その格好に思わず笑うと、彼は不思議そうな顔をした。
END
「寒さが身に染みて」
成人式は出なかった。
そして出なくても何ら不都合なことは起きなかった。
人生なんてそんなもの、と何かを悟った。
そう、だいたいのことは「そんなもの」で済む。
20歳なんて、人生100年時代で言えばたったの五分の一。健康であればその五倍も生きることになる。
だから少し力を抜いて、生きることをあまり重く考え過ぎないことも大切だと思うよ。
END
「20歳」
闇に浮かぶ光の船は 誰を乗せているのでしょう
昏い海を独りで漂い 誰の元へと行くのでしょう
月の形のその船を 導くものは何もなく
傾き揺れる三日月は 誰にも見られず 沈むでしょう
沈んだ先に船を待つ 愛しい誰かはいるのでしょうか
光り輝く月の船は 誰にも見られず消えました
END
「三日月」