「昔はコツコツ、ヒタヒタって感じだったのになぁ」
「何の話?」
「日が短くなって、気温がだんだん下がって、って、そんな感じだったのに」
「あぁ、季節のことね」
「今ってさ、大股でいきなりドカドカ来て、バンッ!! ってドア蹴破る感じ」
「確かにね」
「訪問販売だったのが強制捜査になったみたいだよ」
「開けろオラァ! って?」
「そんな感じ」
「どうせなら少しずつ近づいて欲しいなぁ。もしもし? アタシ冬将軍。今貴方の家の近くにいるの」
「ホラーかよ。まぁでも、じわじわ近づいて来る方が準備も出来るよね」
「まだコタツ出して無いんだよなぁ」
「土曜日手伝ってあげるよ」
「ありがと。じゃあミカン買っとくね」
END
「冬の足音」
悪意さえ無ければ中身がなんであれ、贈り物は嬉しいよね。
お菓子でも本でも現金でも、手紙やカードの一枚でも、こちらを思って何かを選んでくれたことが嬉しいよ。
END
「贈り物の中身」
小さな可愛らしいデザインの缶を取り出して、テーブルにことりと置いた。
「なにそれ?」
「金平糖」
「冷やしといたの?」
「そう」
彼は星空があしらわれた缶の蓋を開け、長い指先でピンクと白の小さな粒を二つ摘んで口に放り込む。
「甘くねぇ?」
「甘いの好きだもん」
今度は水色。
「いや酒に合うかって聞いてんの」
言いながら作った水割りを二つ置いて、俺も一粒摘んでみる。
「あっまっ!」
砂糖の塊だから当然だ。俺は一粒だけで懲りてすぐに水割りを流し込んだ。
彼は寄越された水割りに無造作に摘んだ金平糖をぽいぽいと放り込む。小さな粒が泡をまとわせながらグラスへ沈む。
「たまにはこういう飲み方もいいよぉ」
「俺はフツーでいいや」
焼酎の量が少し多かったようだ。喉が熱い。彼は長い指でグラスを持ち上げ、水割りをゆっくり流し込む。砕けた氷と金平糖がグラスの中で踊り、カラカラと高い音を響かせる。
小さな星が彼の中へ消えていく。
凍てつく星を飲み込んで、世界を創った神のように彼は笑った。
END
「凍てつく星空」
生まれたその瞬間から物語は始まっている。
主人公は君。
他でもない君。
これは君が紡ぐ物語。
たった一人でも物語は紡がれる。
その物語がどこまで広がるかは君自身にもきっと分からない。いや、世界中の誰も、自分の物語がどこまで広がるか、どうやって広がるかは分からない。
でも、それでいい。
君が紡ぐ物語は、どんな形だって正解なのだから。
END
「君と紡ぐ物語」
街は全て焼き尽くされた。
教会も、学校も、図書館も、ショッピングモールも、何もかもが瓦礫の山となり、灰色一色になった。
ウェディングベルも、始業のチャイムも、子供の歓声も、人々のざわめきも、何もかもが無くなった。
「·····」
あのざわめきが戻ってくるまで、どれほどの時間が必要なのだろう。
作り上げるには膨大な時間がかかるが、失うのは一瞬だ。けれど人の力ではどうにもならないものがあって。
「·····」
灰色の世界を見続けるのが苦しくて、思わず蹲る。
通りを吹き抜ける風の音だけが、私の耳に鋭く響いていた。
END
「失われた響き」