重力など存在しないかのように彼は舞う。
引力などに引かれたりしないかのように彼は空を駆ける。その姿に目を奪われ、心臓を鷲掴みにされる。
全部ありもしない妄想なのだとしても、私は彼の背に透明な羽根を幻視する。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、果てしなく遠くにいる気がする。
でももし、「行くな」と言って縛り付けたら。
彼はそれでも、あの笑顔を見せてくれるだろうか。
透明な羽根をはばたかせ、どこかに行ってしまわないだろうか。
募る不安は隠しきれず、笑顔で振り返る彼の手を強い力で掴むしかなかった。
END
「透明な羽根」
本を読むだけの灯りがあればよい。
夜はそれだけでいい。
そうやって過ごしてきたから、向かいに人がいるのが落ち着かない。そう言うと「私もだから安心して」と言って君は笑った。
テーブルにあるのはスタンド式のランプと珈琲とチョコレート。
深夜にも関わらず、俺はこれがやめられない。
君は静かに本を読んでいる。
ランプに照らされた顔。
伏せた睫毛が意外と長いことに気付く。
「·····なに?」
「あ、ごめん」
凝視してしまった。
君はまた本に視線を落とす。
俺も読みかけの小説に目を落とすが、内容が入ってこない。――だから嫌なんだ。
「明日には帰るから」
本に目を落としたままそう言った君に、俺は何と答えれば良かったのだろう。
翌朝、テーブルには君が読んでいた本だけがぽつんと残されていた。
END
「灯火を囲んで」
冬支度はあるけど春支度は無い。秋支度も無い。夏支度は単語としてはあるけどあまり聞かない気がする。
冬は炬燵とかストーブとか、実際に物が多いからだろうか。確かに冬物衣料や布団は嵩張るし、重いし、支度だけで疲れてしまう。
歳を取るとそれがますます感じられてしまって、だんだん億劫になってくる。
早く全館空調の家が安く手に入るようになればいいのに。
END
「冬支度」
いま時間を止めたら無限に寝てしまいそうだから駄目(笑)。こんな事しか浮かばない状態です。
END
「時を止めて」
どーしてもあの匂いが好きになれなかった。
甘ったるい、わざとらしい、そんな印象。
花は控えめで可愛らしいのに、やたら強烈な匂い。
そういえば、〝香り〟と〝匂い〟で印象が違う気がするのはどうしてだろう??
END
「キンモクセイ」