せつか

Open App

本を読むだけの灯りがあればよい。
夜はそれだけでいい。
そうやって過ごしてきたから、向かいに人がいるのが落ち着かない。そう言うと「私もだから安心して」と言って君は笑った。
テーブルにあるのはスタンド式のランプと珈琲とチョコレート。
深夜にも関わらず、俺はこれがやめられない。
君は静かに本を読んでいる。
ランプに照らされた顔。
伏せた睫毛が意外と長いことに気付く。
「·····なに?」
「あ、ごめん」
凝視してしまった。
君はまた本に視線を落とす。
俺も読みかけの小説に目を落とすが、内容が入ってこない。――だから嫌なんだ。

「明日には帰るから」
本に目を落としたままそう言った君に、俺は何と答えれば良かったのだろう。

翌朝、テーブルには君が読んでいた本だけがぽつんと残されていた。


END



「灯火を囲んで」

11/7/2025, 11:28:34 PM