重力など存在しないかのように彼は舞う。
引力などに引かれたりしないかのように彼は空を駆ける。その姿に目を奪われ、心臓を鷲掴みにされる。
全部ありもしない妄想なのだとしても、私は彼の背に透明な羽根を幻視する。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、果てしなく遠くにいる気がする。
でももし、「行くな」と言って縛り付けたら。
彼はそれでも、あの笑顔を見せてくれるだろうか。
透明な羽根をはばたかせ、どこかに行ってしまわないだろうか。
募る不安は隠しきれず、笑顔で振り返る彼の手を強い力で掴むしかなかった。
END
「透明な羽根」
11/8/2025, 12:12:47 PM