あの子はいつもご機嫌に歌をうたう。
甲高い声で、お世辞にも上手いとは言えない歌を。
「ふんふーん♪」
何をする時でも歌をうたう。
以前、なんでそんなに歌が好きなのかと聞いた事がある。するとあの子はニコニコと笑ったまま、「言っても無駄だから教えなーい♪」と歌うように返された。
今もあの子はご機嫌で歌っている、
鈍い音をBGMに、何度も両腕を上下に振りながら。
飛沫をあちこちに撒き散らしながら。
「LaLaLa Goodbye ~♪クソみたいなこの世にサヨナラ~♪」
どこかで聞いたことがあるような無いような、もしかしたらあの子が即興で作った歌なのかもしれない。
「いつかの質問答えてやるよ」
手にしたものを放り投げて、あの子が振り向く。
頬に飛び散る飛沫が鮮やかに僕の目に映る。
「歌でも歌わなきゃやってらんねえ毎日だったからだよバーカ!」
鈍い音が再び響く。
僕の意識はそこで途切れた。
END
「LaLaLa Goodbye」
どこまでも分かり合えない。
どこまでも平行線のまま。
多分死ぬまでこの感覚のまま。
血が繋がってる親子なのにね。
END
「どこまでも」
十年以上前。
初めて渋谷のスクランブル交差点に来た時、異世界かと思った。縦横無尽に行き交う人々。その誰もがすれ違う人とぶつからずにすいすいと歩いていく。
しかもみんな、早い。
私は慣れない道で右往左往。
目的の店が分からなくて慌てて人を避けて足を捻りそうになる。
みんなどうしてぶつからずにすいすい行けるんだろう。
みんなどうしてあの奇抜な格好の人をスルーして行けるんだろう。
みんな誰が何をしていても気にしない。
道の真ん中でピンヒールの女の子が撮影してても、ぬいぐるみいっぱいつけたカバンを持った女の子が走って行っても、セーラー服着たおじさんがスタスタ歩いていても、誰もみんな気にしない。
――いいな。
田舎と違って、無関心で。
人の人生に知ったかぶりしてズカズカ入り込んで来たりしないで。
異世界みたいなこの交差点を、いつか颯爽と歩けるようになれたら·····この憂鬱な暮らしが少しはマシになるかもしれない。そう思った。
END
「未知の交差点」
コスモスを一輪だけ、というのはちょっと難しい。
群生というか、一面広がっているイメージがあるから一輪だけあるのは貧相な感じがする。
本当はそんなこと無いのだろうけど、一輪だけポツンとあると、仲間とはぐれてしまった迷子のような寂しさがある。
部屋に飾るには寂し過ぎて、種を蒔いて育てるにはうちの庭は狭過ぎて、お近付きになれそうでなれない、そんな花。
だから私は道端で見掛けたコスモスにスマホを近づけて、写真に収める。
一輪だけのコスモスは今、スマホの画面を飾っている。
END
「一輪のコスモス」
秋は寂しいなんて誰が言ったんだろう?
暑過ぎず、寒過ぎず、行楽に行くには最高の気候。
イベントごとなら運動会に文化祭、ハロウィンに秋祭り。楽しいことがたくさんある。
全然寂しくないじゃん。
普段コミュ障な私も、多少気分がアガるから。
「あの、話があるんですけど·····放課後、図書館で」
END
「秋恋」