コスモスを一輪だけ、というのはちょっと難しい。
群生というか、一面広がっているイメージがあるから一輪だけあるのは貧相な感じがする。
本当はそんなこと無いのだろうけど、一輪だけポツンとあると、仲間とはぐれてしまった迷子のような寂しさがある。
部屋に飾るには寂し過ぎて、種を蒔いて育てるにはうちの庭は狭過ぎて、お近付きになれそうでなれない、そんな花。
だから私は道端で見掛けたコスモスにスマホを近づけて、写真に収める。
一輪だけのコスモスは今、スマホの画面を飾っている。
END
「一輪のコスモス」
秋は寂しいなんて誰が言ったんだろう?
暑過ぎず、寒過ぎず、行楽に行くには最高の気候。
イベントごとなら運動会に文化祭、ハロウィンに秋祭り。楽しいことがたくさんある。
全然寂しくないじゃん。
普段コミュ障な私も、多少気分がアガるから。
「あの、話があるんですけど·····放課後、図書館で」
END
「秋恋」
Q:『ベルサイユのばら』で一番好きな男性キャラクターは?
A:ジェローデル大尉!
オスカルの事が好きな彼女の部下。
私はアンドレよりもフェルゼンよりも、ジェローデルが好きだった。
好きな人が不幸になると自分も不幸になる、と言って身を引く潔さとか、父上に振り回されて男か女かで葛藤するオスカルを痛々しいと言うところとか、オスカルのことよく見てるなって思った。
「愛する、それ故に身を引きましょう」
こんな事が言える彼が好きだった。
久しぶりに漫画を引っ張り出して読もうかな。
END
「愛する、それ故に」
静かな場所にいる人はだいたい自分がその場所の中心だと思い込んでるよね。
でもそれ、勘違いだよ。
みんな勝手に動いてて、誰もあなたになんか目もくれない。ひとりぼっちなのを、そう思いたくないから強がってるだけ。
残念でした。
あなたは世界の中心なんかじゃないよ。
END
「静寂の中心で」
唐突に呼び出された。
「おう、来たか」
緊張しながら控えていると、意外にも彼は口元に笑みを浮かべて「ちと手伝って欲しくてな」と言った。
庭の落ち葉が溜まって難儀しているという。
色づき始めた日本庭園は風情があるが、秋になり、紅葉し、目を楽しませた葉は落ちたらゴミになった。
雨が降ると滑るし重くなるしで危険なのだという。
毎年定期的に掃除をしているそうだが、今年はいつも世話になってる業者がなかなか捕まらないそうだ。
「なに、枯葉を集めて隅で燃やすだけじゃ」
それを手伝って欲しいと言うことだった。
同僚に呼び出しだと言われた時は「何かやらかしたか?」と心配したが、思いがけない申し出に僕は拍子抜けした。
「お安い御用です」と快く引き受ける。
「助かるわい」
ほうきで枯葉を集め、山を作る。
厳しいと言われる彼だったが、話してみると冗談も言うし笑顔も見せる、ごく普通の人だった。僕は勝手なイメージを持っていたことを内心で謝罪し、彼と談笑を続けながら手を動かした。
「こんなもんじゃろ」
彼が言って、着火剤を取り出した。
カチカチと何度かスイッチを押すが、なかなかつかない。僕は念の為にバケツを持ってきて、彼の様子を窺う。
「おぉ、そう言えば」
カチカチと音をさせながら彼がこちらを向いた。
「ワシのモンとよろしくやっとるようじゃのう」
面白そうに僅かに首を傾けて、彼が笑う。
「スキンシップが好きじゃ、言うとったが、アイツの手は柔らかかったか?」
「――」
カチカチ。
カチカチ。
「広い庭じゃからの、まだまだ葉が落ちる」
広い庭の片隅が燃えたところで、誰も気にしない。
僕は山になった落ち葉と同じ、ゴミだ。
END
「燃える葉」