唐突に呼び出された。
「おう、来たか」
緊張しながら控えていると、意外にも彼は口元に笑みを浮かべて「ちと手伝って欲しくてな」と言った。
庭の落ち葉が溜まって難儀しているという。
色づき始めた日本庭園は風情があるが、秋になり、紅葉し、目を楽しませた葉は落ちたらゴミになった。
雨が降ると滑るし重くなるしで危険なのだという。
毎年定期的に掃除をしているそうだが、今年はいつも世話になってる業者がなかなか捕まらないそうだ。
「なに、枯葉を集めて隅で燃やすだけじゃ」
それを手伝って欲しいと言うことだった。
同僚に呼び出しだと言われた時は「何かやらかしたか?」と心配したが、思いがけない申し出に僕は拍子抜けした。
「お安い御用です」と快く引き受ける。
「助かるわい」
ほうきで枯葉を集め、山を作る。
厳しいと言われる彼だったが、話してみると冗談も言うし笑顔も見せる、ごく普通の人だった。僕は勝手なイメージを持っていたことを内心で謝罪し、彼と談笑を続けながら手を動かした。
「こんなもんじゃろ」
彼が言って、着火剤を取り出した。
カチカチと何度かスイッチを押すが、なかなかつかない。僕は念の為にバケツを持ってきて、彼の様子を窺う。
「おぉ、そう言えば」
カチカチと音をさせながら彼がこちらを向いた。
「ワシのモンとよろしくやっとるようじゃのう」
面白そうに僅かに首を傾けて、彼が笑う。
「スキンシップが好きじゃ、言うとったが、アイツの手は柔らかかったか?」
「――」
カチカチ。
カチカチ。
「広い庭じゃからの、まだまだ葉が落ちる」
広い庭の片隅が燃えたところで、誰も気にしない。
僕は山になった落ち葉と同じ、ゴミだ。
END
「燃える葉」
10/6/2025, 3:14:08 PM