美しいとするものの基準。
正しいとするものの基準。
もし、人類全てがそれらに全く同じ基準を持っていたら·····、この世から戦争や差別は無くなるのかもしれない。
でもそれは、たった一つの価値観に支配されるということなのだろう。
その基準から外れたものは美しくないものとして、正しくないものとして排除される。それはやっぱり危険な思考なのだと思う。
私が美しいと思うものも、誰かにとっては醜いものなのかもしれない。
私が醜いと思うものも、誰かにとっては美しいものなのかもしれない。
それを常に認識していることが多分、〝分かり合う〟ということなのだ。
END
「美しい」
真面目な人や誠実な人や優しい人が報われるように出来ていないんだろう。
END
「どうしてこの世界は」
誰か一人でも歩幅を合わせてくれる人がいたのなら。
あの方の運命は違っていたのかも知れません。
ぬかるんだ田舎道だろうが、岩だらけの山道だろうが、きっと平気だったでしょう。
先に立って追いつくのを待つのではなく、泥に足を取られるのも、岩に躓くのも、一緒に経験してくれたなら。同じ人なのだという安心感で、少しは楽になれたかも知れません。
でも、そうはなりませんでした。
あの方の周りには先に立って追いつくのを待つ者ばかりで、一緒に汚れたり傷付いたりしてくれる人はいなかったのです。
ただ一人、あの方の孤独に気付いた者がいました。
けれど彼が気付いた時にはもう、何もかもが後戻り出来ないところまで追い詰められていたのです。
あなたも知ってのとおり、あの方はそうして全てを失いました。
今、改めて思うのです。あなたという、常に私と歩幅を合わせてくれる友という存在の、かけがえのなさを――。
ありがとう。あなたがいたから、私はあの険しい道を歩く事が出来ました。
END
「君と歩いた道」
自慢の子だったんです。
涙を浮かべて母は語った。
艶やかで綺麗な髪、パッチリした大きな目。
滑らかな頬に果実のような唇。
しなやかに伸びる手足で元気に走る子でした。
その子が脱ぎ捨てたであろう白いフリルのワンピースには、真っ赤な染みがついている。
大きなぬいぐるみを抱えてニッコリ微笑む姿は、私の理想の夢見る少女そのもので·····。
母の啜り泣きは止まらない。
どうしてこんな事になったのか、あんなに大事に育ててきたのに。
相棒はそんな母親の肩にそっと手を置いて、慰めるような仕草をする。
〝どうしてこんな事になったのか〟
私は何となく分かったような気がした。
肩を震わせ、両手で顔を覆って泣く母親の口角が、微かに持ち上がっていたのを見てしまった瞬間から――。
END
「夢見る少女のように」
どこへ? と聞いても答えは無く。
どこまで? と聞いても答えてくれない。
私を導くその手は最後まで繋いだままだろうか?
その先にあるものは本当に希望なのだろうか?
途中でその手を離されたら。
辿り着くその果てが私の望んだものと違ったら。
私は私のままでいられるだろうか。
「さあ行こう」
なんて前向きな、背中を押してくれる言葉。
でも、繋いだその手の主が今、どんな顔をしているのか私には分からない。
背中を押してくれるその場所が、実は断崖絶壁なのかもしれない。
後に残るのは、輝かしい足跡か無惨な残骸か。
いまはまだ分からない。
END
「さあ行こう」