誰か一人でも歩幅を合わせてくれる人がいたのなら。
あの方の運命は違っていたのかも知れません。
ぬかるんだ田舎道だろうが、岩だらけの山道だろうが、きっと平気だったでしょう。
先に立って追いつくのを待つのではなく、泥に足を取られるのも、岩に躓くのも、一緒に経験してくれたなら。同じ人なのだという安心感で、少しは楽になれたかも知れません。
でも、そうはなりませんでした。
あの方の周りには先に立って追いつくのを待つ者ばかりで、一緒に汚れたり傷付いたりしてくれる人はいなかったのです。
ただ一人、あの方の孤独に気付いた者がいました。
けれど彼が気付いた時にはもう、何もかもが後戻り出来ないところまで追い詰められていたのです。
あなたも知ってのとおり、あの方はそうして全てを失いました。
今、改めて思うのです。あなたという、常に私と歩幅を合わせてくれる友という存在の、かけがえのなさを――。
ありがとう。あなたがいたから、私はあの険しい道を歩く事が出来ました。
END
「君と歩いた道」
6/8/2025, 3:02:01 PM