せつか

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3/19/2025, 11:26:29 PM

「この国は平和だと思ってた」
「普段は静かで安全な街なんだけど·····」

どこの世界の話をしているんだろう?
この世界のどこにも平和で安全な場所なんてないのに。
平和で安全なのはほんの一瞬、ほんのわずかな時間で『平和とは戦争と戦争の間の準備期間である』という言葉もあるくらいだ。
戦争などという重大な事態でなくとも、地震、台風などの自然災害、交通事故、強盗、通り魔などの犯罪は世界中どこにでも転がっている。
そうでなくとも、食べるものが無くて死んでいく人、精神的、肉体的暴力で心をすり減らして死んでいく人、犯罪に巻き込まれ財産全てを無くして死んでいく人、原因不明の病で死んでいく人が、どれだけいると思っているのだろう。

安全な街、平和な国。
それは束の間の幻のようなものだ。


「どこ?」


END

3/18/2025, 3:29:10 PM

パステルカラーのカーテンに、布団カバー。
ロッキングチェアには両手で抱えるほどの大きなくまのぬいぐるみ。テーブルに置かれたガラスの器には、カラフルなキャンディが詰まっている。
「好きだよ。好きだ。大好きだ」
彼はそう言って、ベッドの端に腰掛けた彼女を強く抱き締める。
可愛らしく飾られた彼女は、彼に優しく微笑み返す。

それは一見、ひどく美しい光景に見える。
けれど彼の眼差しは恋人に向けるソレではなく、お気に入りのおもちゃに向けるもので。
物言わぬ彼女はまるで人形のように、彼に笑みを返すだけだった。

「好きだよ。好きだ。大好きなんだ」
それしか言葉を知らないように、彼はそれだけを繰り返し、彼女を飾り、食べ物を与え、愛を囁く。
――夢にまで見た彼女が目の前に。
彼にとってこの部屋は、紛うことなき理想郷だったのだろう。

もし、一言。
「何が欲しい?」
と彼が彼女に聞いたなら。
彼の理想郷はあっけなく反転し夢は終わりを告げるのだろう。
なぜなら彼女は·····


END


「大好き」

3/17/2025, 1:39:22 PM

過去に戻りたい。
あの言葉を取り消したい。選択をやり直したい。
でもそれは、叶わぬ夢で。

どうしようもない事が後悔として頭の片隅や胸の奥に残っている。
でもそれが、そういう事があったという事実が、次の選択を間違えない為の支えになるのかもしれない。
そして叶わぬ夢がある、という事がそのものが、人であるという事なのかもしれない。


END


「叶わぬ夢」

3/16/2025, 12:59:21 PM

不意に甘い香りが漂ってきて、男は足を止めた。
そもそも歩いていたここがどこかも、何故歩いていたのかも、男には分からない。
ただ嗅いだ覚えのあるその香りに、男はいつのまにか自分が〝彼の領域〟に迷い込んでしまったのだと気付いた。

「――また貴方か」
「そうだよ」
噎せ返る甘い匂い。
突如として咲き乱れる花々。
「私といても楽しいことなんか無いだろう」
「そんなことないよ。君のもたらしたもの、君が迎えた結末、どれも興味深い」
「あの方の生を貴方の娯楽の為に消費されるのは我慢ならない」
「うん、分かってる。だから君に会いに来た」
「どういう――」
「ヒトの心を持たない私に、教えて欲しいんだ。叶わぬものと分かっていても、とめられなかった心·····というものを」

風が吹く。
花びらが舞う。
甘い香りがかき消される。

気が付けば、そこはいつもの通りで。
いつもの通りに、見慣れぬ花屋がある。
「――」
その小さな灯りに誘われるように、男は歩き出していた。


END



「花の香りと共に」

3/15/2025, 3:59:48 PM

言葉が通じない。
意図を汲んでくれない。
整えていたのを乱される。
簡単に物を失くす。
汚す、乱す、変える、壊す。
こちらが丁寧に丁寧に、少しでも美しく、少しでも効率的に、少しでも楽に出来るようにと考えておいたものを簡単に壊されると、ふつふつとイライラが湧き上がる。
そしてその相手が全く意に介さない様子で笑いかけてきたりすると、ざわめきが最高潮に達する。

私の心が狭いのだろうか。
私が考え過ぎなのだろうか。

〝繊細さん〟という言葉があるけれど、社会の中で生きていく以上、多かれ少なかれそういう向き合い方は必要なのではないだろうか??


END


「心のざわめき」

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