せつか

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パステルカラーのカーテンに、布団カバー。
ロッキングチェアには両手で抱えるほどの大きなくまのぬいぐるみ。テーブルに置かれたガラスの器には、カラフルなキャンディが詰まっている。
「好きだよ。好きだ。大好きだ」
彼はそう言って、ベッドの端に腰掛けた彼女を強く抱き締める。
可愛らしく飾られた彼女は、彼に優しく微笑み返す。

それは一見、ひどく美しい光景に見える。
けれど彼の眼差しは恋人に向けるソレではなく、お気に入りのおもちゃに向けるもので。
物言わぬ彼女はまるで人形のように、彼に笑みを返すだけだった。

「好きだよ。好きだ。大好きなんだ」
それしか言葉を知らないように、彼はそれだけを繰り返し、彼女を飾り、食べ物を与え、愛を囁く。
――夢にまで見た彼女が目の前に。
彼にとってこの部屋は、紛うことなき理想郷だったのだろう。

もし、一言。
「何が欲しい?」
と彼が彼女に聞いたなら。
彼の理想郷はあっけなく反転し夢は終わりを告げるのだろう。
なぜなら彼女は·····


END


「大好き」

3/18/2025, 3:29:10 PM