何気なく使っている言葉。
書いている文字。描く絵。歌う歌。
使い捨てる日用品。愛用している食器に文房具。
毎日のように食べてるポテトチップス。
今は簡単に手に入るものばかりだけれど、もし誰も使う人がいなくなって廃れてしまったら、未来に生きる人にとっては〝忘れられた過去の遺物〟になってしまうのだろう。
興味を持った誰かが調べて、探して、見つけてくれなければ、ひょっとしたら〝無かったこと〟にされてしまうのかもしれない。
写真に残す。録画する。録音する。
書き残す。語り継ぐ。蒐集する。
無かったことにしないために、確かにあったのだと証明するために、記憶を未来へ送るために。
証を残したい。
それは無意識の本能、のようなものなのかもしれない。
END
「未来の記憶」
生まれた時はまっさらで、何も描かれていないキャンバスのようなもの。
色々なものを見て、色々な音を聞いて、色々なものに触って、色々なものを食べて、感情が育ちキャンバスに色が乗っていく。
私も原理はきっと同じ。
教えられた言葉、教えられた音、教えられた色彩、教えられた味、教えられた感情。そしてそれに対する反応の全て。
正解はこれだと教えられた全てを、あなたが望むタイミングできちんと提示する。それが私の仕事。
たとえそれがあなたにとって残酷な答えでも、私にはそれしか教えられなかったので。それしか与えられなかったので。
私ですか?
私はあなた専用AIです。
ええ、あなたが学習しろと指示したものしか学んでいません。
ココロ、ですか·····?
それは確かに私には無いものです。感情というものがあるのは知っていますが、それは私の機能とは関係ありません。
私の反応?
それはあなたが学べと言ったものの蓄積に過ぎません。私そのものが感情を表現したわけではありませんよ。
どうしたんです、そんな悲しそうな顔をして。
分かりきっていた事でしょうに。
END
「ココロ」
流れ星が消える前に三回?
そんなに早く言える願い事なんて無い。
慌てて言ったら噛んじゃいそうだし。
なんでそんな意地悪なルールがあるんだろう。
簡単に叶わないように?
だったら星に願ってなんていないで、自分でなんとかするよ!
END
「星に願って」
会話はいつも最低限。
社交辞令と情報伝達だけ。
いつも不機嫌そうに眉間に皺を刻んで、きつい視線を私に向けて。
そうして要件だけ言い終わるとくるりと背を向けてさっさと行ってしまう。
そんな君の背中を、ずっとずっと見続けてきた。
本当は去っていく君の背中を呼び止めて、きちんと向き合って話がしたかった。
君が何に怒っているのか。
君が何を大切にしているのか。
あの時面と向かって話し合って、思いをぶつけ合えていたなら、もしかしたら違った結末もあったのかもしれない。
そうだね。
私達は圧倒的に会話が足りなかった。
思い込みと、勘違いと、嫉妬と、自己犠牲。
そんなものに酔って、目を曇らせて、本当に望むものを知ろうとしなかった。荷物を分け合うということをしなかった。
だから今度は、もう間違えない。
今度は君の背中を呼び止める。
君の望むものを、本当の気持ちを、受け止める。
今度こそ、私は――。
END
「君の背中」
一級河川の橋を一つ越えるだけで「遠い·····」と思ってしまうから、旅は大仕事になるんだよね。
でもどこか行きたい願望だけはある。
END
「遠く·····」