痒くなるから手ぶくろはしないと言ったら、えー、と唇を尖らせた。
「なんでよ」
「こっちがなんでよ」
「手ぶくろしたらいいじゃん。あったかいよ」
「毛糸とか、痒くなるんだよ俺」
「でも寒いんでしょ?」
「寒いよ」
だからポケットに手を突っ込んでる。
「あ! これは? 毛糸じゃないよ。レザー。かっこいいじゃん」
「痒くなるのも蒸れるのも嫌いだからいらね」
「もー」
「お前はしてるんだからいいじゃん。寒いのは俺だけなんだし」
そう言うと、アイツはレザーの手ぶくろを棚からぶんどるようにして突然レジに向かう。
会計したその場でタグを外して貰い、俺の元に戻ってくる。
「デートが終わるまででいいから、つけてて」
無理矢理つけさせられた手ぶくろは、少しきつかった。
降り出した雪の中、手を繋ぐ。
俺のレザーの手ぶくろと、アイツの毛糸の手ぶくろが重なる感触は、いつもと違ってなんだか変な感じがした。
駅が近付く。デートはもうすぐ終わる。
ぶっちゃけ痒くて、汗で蒸れる感じがして、今すぐ手ぶくろを脱ぎ捨てたい。
でも、俺が手ぶくろをした途端アイツがやたら上機嫌になったから、あと少しだけ我慢する。
「ありがとね、手ぶくろしてくれて。もう外していいよ」
待ち兼ねた、というように少し乱暴に引き抜くと――
やけに恍惚とした顔をしたアイツがいた。
END
「手ぶくろ」
好きだったものがふとした事が原因で嫌いになったり、一気に興味を無くしたりする事がある。
熱中した漫画、何度も聞いたアーティストの曲、よく喋ってた友達、好きでも嫌いでもないけど近くに存在するのが当たり前だったもの·····。
そういったものが、視界に入る事すら不快になって、嫌悪感を抱いてしまう事がある。
理由は色々。
突然疎外感を感じる。それらより惹かれるものが出来た。相手の発言が受け入れ難いものだった·····etc。
こちらの心が変わってしまったのか、あちらの在り方が変わってしまったのか。どちらにせよ一度心が離れてしまったら、なかなか元には戻れない。
変わらないものはない、なんて。
大嘘だ。
END
「変わらないものはない」
クリぼっちとか何とか、相変わらず一人でいることを嘲笑する文化があるんだね。
一人でいようが誰かといようが、仕事していようが遊んでようが、ケーキを食べようが食べまいが、ツリーやリースを飾ろうがどうしようが、他人にどうこう言われる筋合いないだろうに。
多様性、とかいう癖にこういう時は少数派を下に見たり笑ったりするんだ。
なんだか、しょーもない。
END
「クリスマスの過ごし方」
血が繋がっていることに心の底から絶望した。
それでも生きていかなきゃならないと、期待しないことと諦めることを選んだ。
そんな夜。
END
「イブの夜」
名前は親からの最初のプレゼント。
何かで聞いたか、読んだか。
私の名前は祖父から一字を貰ったらしい。
私が生まれるだいぶ前に亡くなったという祖父。
顔も知らない、どんな人だったか分からない祖父。
そんな祖父の字を貰ったんだよ、と言われて、私はどんな顔をすれば良かったんだろう?
何度か祖父がどんな人だったか聞いてみたが、いまいちイメージが湧かなかった。
私はどんな顔をすれば良かったんだろう?
名前は親からの最初のプレゼント。
素直に喜べなかった私は、嫌な子供でした。
END
「プレゼント」