痒くなるから手ぶくろはしないと言ったら、えー、と唇を尖らせた。
「なんでよ」
「こっちがなんでよ」
「手ぶくろしたらいいじゃん。あったかいよ」
「毛糸とか、痒くなるんだよ俺」
「でも寒いんでしょ?」
「寒いよ」
だからポケットに手を突っ込んでる。
「あ! これは? 毛糸じゃないよ。レザー。かっこいいじゃん」
「痒くなるのも蒸れるのも嫌いだからいらね」
「もー」
「お前はしてるんだからいいじゃん。寒いのは俺だけなんだし」
そう言うと、アイツはレザーの手ぶくろを棚からぶんどるようにして突然レジに向かう。
会計したその場でタグを外して貰い、俺の元に戻ってくる。
「デートが終わるまででいいから、つけてて」
無理矢理つけさせられた手ぶくろは、少しきつかった。
降り出した雪の中、手を繋ぐ。
俺のレザーの手ぶくろと、アイツの毛糸の手ぶくろが重なる感触は、いつもと違ってなんだか変な感じがした。
駅が近付く。デートはもうすぐ終わる。
ぶっちゃけ痒くて、汗で蒸れる感じがして、今すぐ手ぶくろを脱ぎ捨てたい。
でも、俺が手ぶくろをした途端アイツがやたら上機嫌になったから、あと少しだけ我慢する。
「ありがとね、手ぶくろしてくれて。もう外していいよ」
待ち兼ねた、というように少し乱暴に引き抜くと――
やけに恍惚とした顔をしたアイツがいた。
END
「手ぶくろ」
12/27/2024, 11:58:53 PM