空を舞うものに憧れる。
鳥、昆虫、気球、飛行機、ドローン、宇宙船·····。
空に憧れる気持ちは誰にでもあるだろう。重力に縛られた私達は、地上から離れることに膨大なエネルギーと技術を必要とする。
でも、よくよく考えてみて欲しい。
空を舞うものはことごとく、落ちていく可能性をはらんでいるということを。
射かけられて。
撃ち落とされて。
衝突して。
故障して。
疲れ果てて。
美しい天使だって落ちていく。
空を舞うものはなんだって、落ちていくかもしれない恐怖と戦っている。
私達人間は臆病で·····その癖傲慢で·····、落ちていくというその恐怖を忘れない為に、自由に空を舞うことが出来ないようになっているのかもしれない。
END
「落ちていく」
おしどり夫婦、仮面夫婦、亭主関白、かかあ天下·····。
夫婦を表す言葉は色々あるけれど、第三者からの視点と本人達の感覚には乖離があると思う。
おしどりは別に特別仲が良いというわけでもないし、仮面夫婦だって本人達や子供がそれで幸せならいいと思う。亭主関白もかかあ天下も、どちらかが強くて、その強い相手に言われる通りにする事が心地よい人だっている。
〝いい夫婦〟〝理想の夫婦〟と持て囃されてる人達が次の年離婚してるのなんかいくらでも見てきた。
それでも私達は何か、これが理想、これが正解、というのを知りたいのかな、と思う。
END
「夫婦」
眼鏡に細かい傷だか汚れだかがついて、何回洗っても落ちないよー!!
END
「どうすればいいの?」
他人から見ればゴミなのでしょう。もっと価値のあるものはあるのかもしれませんし、綺麗にすれば見栄えがよくなるのかもしれません。誰よりも、私がそれを分かっているのです。
しおれて変色してしまった花冠。
花も葉もすっかり枯れ落ちて、もう冠の形をほとんど成してはおりません。
ええ、あなたの仰る通り。
同じ花を探して作り直す方法もあるのでしょう。
ここでなら、ドライフラワーにするという手もあるのでしょう。
でも、いいのです。
私にとってこの花冠は、花の美しさは二の次で。
あの方が摘んだ花。
あの方が編んだ冠。
それが私にとって、何にも変え難い宝物なのです。
だからどうか、このままで。
色あせた花とくたびれた葉。
金細工を扱うかのような繊細な手つきでそれに触れる彼は·····それはそれは幸せそうな顔をしていて·····私は胸が締め付けられる思いがした。
END
「宝物」
キャンドルで連想されるのはクリスマス、結婚式、アロマ。
これがローソクだとカ〇ヤマとかお墓参りとかお仏壇になって、ろうそくだと誕生日や百物語、防災グッズになる。
そして蝋燭·····。私はこの漢字の蝋燭という字に、とても不穏なものを感じる。薄暗い部屋に一つだけ灯り、ゆらゆら揺れる小さな炎。風も無いのに揺れる理由を何故かと考える――。
叫び声。何かを打擲する音。這いずる音。
私は布団を頭から被るとふるふると首を振って不穏な空気を押しやる。
楽しいことを考えよう。
キャンドルサービス。
キャンドル型のオーナメント。
流れるBGMはウェディングソングかクリスマスソング。新郎新婦か小さな子供か、とにかく主役がニコニコ笑ってて、私もそれを笑顔で見つめる。
電気が消えて、一瞬の静寂が訪れる。
真っ暗な部屋。
風も無いのに〝蝋燭〟の炎が揺れる。
――あ。しまった。
なんて、思ってしまったのが間違いだった。
真っ暗な闇の中。
振り返ると真っ赤な口を開けた女が走り去っていく。
ザザザザザ。
それはおよそ、人が発する音でははかった。
なんて。
楽しいことを考えてたのに、ホラーになっちゃった。
END
「キャンドル」