せつか

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10/11/2024, 3:50:19 PM

別荘からは対岸のお屋敷がよく見えました。
一階は広間か食堂と思われる一面ガラス張りの部屋から湖にせり出す形でテラスが伸び、二階は個室が並んでいるらしく小さな窓が三つありました。
どの部屋の窓も重そうなカーテンで仕切られ、中の様子は分かりません。私は自分に与えられた部屋から時折そのお屋敷を眺めては、カーテンが開いたらどんな人が顔を出すのだろう、どんな部屋が広がっているのだろうとよく想像していました。

蔦が絡む薄暗いお屋敷。
気難しい人が住んでいるというお屋敷。
ですが私にはそこが、慣れ親しんだ物語に出てきた、魔法使いの住むお屋敷に見えたのです。
夥しい数の本、並んだ薬瓶、梁にぶら下がる干した植物、音も無く歩く黒猫、フードを被って静かに歩く老人、もしくは美女·····常に閉ざされたままのカーテンは、湖の雰囲気と相まって私のそんな想像をかき立てるだけの神秘さを湛えていました。

別荘に来て十日ほどが過ぎた頃でしょうか。
ある日の夕方のことでした。

蔦が絡むお屋敷の、二階に三つ並んだ部屋。
その真ん中にある窓のカーテンが、開いていたのに気付いたのです。
「·····」
私は驚き、自分の部屋の窓に肘をついてじっとそこを見つめました。誰か、何か見えるかも知れない。そんな期待に胸を膨らませました。
――ええ。今にして思えば不躾で、無作法だったと思います。よその家の中が見たいだなんて。
でも、子供だった私はそんな事を考えられるわけがなく、ただ己の好奇心だけで突き動かされていたのです。

やがて日が沈み、月明かりが湖を照らすようになりました。左右に開かれ、留められたカーテンの裾が湖を渡る風に微かに揺れています。
「――」
そこで私は見たのです。
シンプルなドレスシャツに身を包み、物憂げな様子で湖面を見つめる美しいひとを――。


END

「カーテン」

10/10/2024, 3:13:34 PM

涙の理由など、数え上げればキリがなかった。
視界に入ることの出来ない孤独
浴びせられる言われなき中傷
周囲と比べて抱く孤立と劣等感
泣くなという方が無理な環境で、それでも彼女は最後まで、私以外の誰にも涙を見せることは無かった。

◆◆◆

「どうしましたか?」
「·····あぁ、ごめん。太陽が、眩しくて·····」
強い光は周囲を白く輝かせ、決然として立つ彼の姿を黒く濃く際立たせる。微笑むことも泣くこともないその姿に、私は不意に溢れてきた涙を抑えることが出来なかった。

◆◆◆

「どうした?」
「いや·····電気が全部消えるとこんなに暗いのかと、思って·····」
音も無く、光も無い世界は自分の姿すら曖昧で、闇に溶けてしまったかのような錯覚に陥る。暗黒の中でシニカルに笑うその姿は、私に泣くことすら出来ない孤独を伝える。

◆◆◆

泣けない者達ばかりの世界で私はただ一人きりで涙を流す。
みんな孤独で、みんな寂しくて、みんな意地っ張りだった。


END


「涙の理由」

10/9/2024, 11:29:29 AM

こんなキャッチコピーの広告だかCMだかがあった気がする。

ココロオドル·····そんな感覚あんまり無いなぁ。

END


「ココロオドル」

10/8/2024, 11:30:07 AM

束の間の「束」は指四本分くらいとか、こぶし一つ分くらいの長さらしい。分かりやすく言うなら約八センチくらいだそうだ。
確かに短い。
仕事中ならちょっと水分補給をするぐらいの時間しか無い。
それでも食べていくためには働かないとなぁ。


END


「束の間の休息」

10/7/2024, 11:43:53 AM

力を込めて
祈りを込めて
怒りを込めて
気持ちを込めて
心を込めて

「入れて」より「込めて」の方がより強い意志や感情があるような気がする。
力を込めた演説は人の心を揺さぶるけれど、こちらの心を揺さぶったのならそれだけの何かを成し遂げて欲しい。

そう思うのは私だけじゃないと思う。


END


「力を込めて」

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