せつか

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7/26/2024, 3:59:13 PM

「あなたの為を思って」
「人のためになりたい」
それは結局自分のためにそうしているんじゃないかと思う。
「あなたの為を思って」苦言を呈する自分は偉い。
「人のためになりたい」のは、自分が他人に迷惑をかけていたり、立派な人になんとなく後ろめたさや劣等感を感じているから。
少なくとも私はそう思っている。

綺麗事なんだろう。
でもその、綺麗事すら無かったらこの世界は本当の地獄になってしまう気がする。
『やらない善よりやる偽善』という言葉があるけど(元が何なのかは知らない)、受け手がそれを善だと受け取って、結果が良ければそれでいいと私は思う。


END


「誰かのためになるならば」

7/25/2024, 3:41:13 PM

鳥かごを用意しよう。
·····いや、かごでは小さ過ぎるな。檻がいい。

広げた羽根が美しい孔雀。
猛スピードで降下して獲物を捕らえるハヤブサ。
優美なダンスと美しい声で誘うフウチョウ。
彼にはそんな、大きな鳥のような美しさがある。
鑑賞に耐えうる存在だよ、彼は。
手元に置きたいと思う者が多いのも頷ける。
かくいう私もその一人。
いやいや、枷や鎖で繋いではいけない。
彼は歩く姿も鑑賞に値するからね。
じゃあどうするか。
糸を張り巡らせるんだ。彼が自ら私の手元にやって来るように。そしてそこから二度と飛び立とうなどと思わないように。

小さな鳥かごでは彼の美しさを堪能出来ない。
檻に誘い込んで、慣らして、私にだけその姿を見せてくれるようにする·····あぁ、楽しいね。
そんな事が出来るのかって?
まぁ、楽しみにしていたまえ。
今度君が来る頃には、彼はもう私の手の内だ。
そしてその見えない檻の扉は、空いたままだと思うよ。あぁ、そうだ。彼の部屋に空の鳥かごでも置こうか?


END


「鳥かご」

7/24/2024, 10:40:46 AM

ちょっと前に見たテレビのナレーションに気になる表現があった。確か、ドラマか映画のあらすじを説明してたと思う。
『恋よりも友情を重んじてしまう〇〇が·····』
ん? ってなった。
〝しまう〟ってなんだ。
恋よりも友情を重んじたら駄目なのか。
というか、恋と友情は比較するものじゃないだろう。
どちらも生きていくのに大切で、恋人が出来たって友人はずっと友人だし、恋人の為に全てを捨てるなんていうのは、現実的じゃない。
なのにテレビでも何でも、恋>友情の図式がさも正しいことのように持て囃される。
この、多様性の時代に。
多様性の時代という表現もあまり好きじゃないけど、もっと色んな関係性があっていいのにと思う。


END


「友情」

7/23/2024, 2:24:00 PM

現実離れした光景が広がっている。
季節や時間といった概念が無いからかもしれない。
棘だらけの葉で獲物を捕える白い花。
禍々しさを湛えた黒い花。
細い管を伸ばして艶めかしく咲く紫の花。
見た事の無い花々が、季節も、時間も関係なく一斉に咲いている。

「魔性とか、慈愛とか、友情とか、色々な言葉があるけど」
男の声がする。
「ヒトが勝手に押し付けたイメージだよ」
幾重にも重なった淡い赤が、目の前で揺れている。
「花は自分の形や、色や、生態にどんな意味があるかなんて知らない」
漏斗に似た形のピンクの花が大きく開いて、私の体を丸ごと包んでいく。――こんな花は現実には存在しない。私はここが夢の中なのだと改めて思い知る。

「君はその花でもあり、この花にも似ている」
私を包んでいた花が不意に消えて、今度は青紫の花に囲まれる。
「どれも正しく、どれも間違いだ」
様々な花が現れては消え、そのたびに私は花びらに包まれたり、蔦に絡まれたり、葉に落ちたりしている。
私が小さくなったのか、花が大きくなったのか、それともそれすら幻覚なのか。
私は目を開けてすらいなくて、男の声に惑わされているだけなのかもしれない。

「君は自分を破滅を齎す罪人だと思っているだろうけど」
男の声は穏やかで、心地よい。
「それもある意味では正しく、ある意味では間違いなんだ」
男が私を見ている。紫の瞳。私と同じだ。
細められた瞳はこの出会いを楽しんでいるのか、哀しんでいるのか。
「君という大輪の花が咲き、散ったからこそ君達の物語は永遠を得たんだよ」
――そんなもの、何になるというのだろう?
「そして、私も」
白い花びらが一枚、まるで布のように広がって私と男を包み込む。
「君という花が·····、君達という花が咲き、散っていくのを見送るという楽しみを得ることが出来た」
楽しみ、という割には、男の声は悲しげで。耳のすぐそばで聞くその声に、私は惑う。
「咲いて、散って、また咲いて·····」
歌うような男の声が、耳元から頬へ移動する。
「何度目かの〝開花〟で、私と君の関係性に変化が訪れる時が来るかもしれないね」
頬に触れた唇は、思いのほか温かかった。

END


「花咲いて」

7/22/2024, 11:56:29 AM

「やり直したい過去でもあるの?」
言いながら、女は両手を後ろに組んでゆったりと歩き出した。キャビネットのファイルを手に取って、パラパラと捲る。大して興味などないのだろう、すぐにそれを棚に戻すと目の前にある大きな3Dプリンターに似た機械に視線を向けた。
「こんな機械まで作っちゃうなんて」
それまで無言でキーボードを叩いていた男は女の言葉に手を止めて、分厚い眼鏡を額に押し上げる。
「別に、そういうワケじゃないよ」
いかにも博士然とした姿の男に女はクスリと小さく笑って、「じゃあ、未来に行って私とどうなってるか知りたいんだ?」と肩を竦めながら問うた。
プシュ、と音がして3Dプリンターに似た機械の扉が開く。
「未来なんか知りたいと思わないよ」
「? だってこれ、タイムマシンでしょ?」
「そうだけど、別にこれは僕達が過去や未来に行く為のものじゃないから」
「どういうこと?」

――ドン。
「ちょっと!?」
突き飛ばされた女が振り向くのと、機械の扉が締められるのはほぼ同時。
「この機械は中に入れたものの時間を進めたり戻したりするものだよ」
「はあ?」
「君を生まれる前まで戻したらどうなると思う?」
操作パネルに手を伸ばす。
「·····まさか」
機械の中に閃光が走り、漏れ出た光が部屋全体を照らす。
「僕にはやり直したい過去も、知りたい未来も無いよ。ただ君だけは·····僕の人生の汚点だから」
光が収まり、元の明るさに戻った部屋。
機械の中には何も無い。
「·····さよなら、バカ女」
男の昏い笑みはやがて哄笑へと変わっていく。

◆◆◆

そこで、目が覚めた。


END


「もしもタイムマシンがあったなら」

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