せつか

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「やり直したい過去でもあるの?」
言いながら、女は両手を後ろに組んでゆったりと歩き出した。キャビネットのファイルを手に取って、パラパラと捲る。大して興味などないのだろう、すぐにそれを棚に戻すと目の前にある大きな3Dプリンターに似た機械に視線を向けた。
「こんな機械まで作っちゃうなんて」
それまで無言でキーボードを叩いていた男は女の言葉に手を止めて、分厚い眼鏡を額に押し上げる。
「別に、そういうワケじゃないよ」
いかにも博士然とした姿の男に女はクスリと小さく笑って、「じゃあ、未来に行って私とどうなってるか知りたいんだ?」と肩を竦めながら問うた。
プシュ、と音がして3Dプリンターに似た機械の扉が開く。
「未来なんか知りたいと思わないよ」
「? だってこれ、タイムマシンでしょ?」
「そうだけど、別にこれは僕達が過去や未来に行く為のものじゃないから」
「どういうこと?」

――ドン。
「ちょっと!?」
突き飛ばされた女が振り向くのと、機械の扉が締められるのはほぼ同時。
「この機械は中に入れたものの時間を進めたり戻したりするものだよ」
「はあ?」
「君を生まれる前まで戻したらどうなると思う?」
操作パネルに手を伸ばす。
「·····まさか」
機械の中に閃光が走り、漏れ出た光が部屋全体を照らす。
「僕にはやり直したい過去も、知りたい未来も無いよ。ただ君だけは·····僕の人生の汚点だから」
光が収まり、元の明るさに戻った部屋。
機械の中には何も無い。
「·····さよなら、バカ女」
男の昏い笑みはやがて哄笑へと変わっていく。

◆◆◆

そこで、目が覚めた。


END


「もしもタイムマシンがあったなら」

7/22/2024, 11:56:29 AM