せつか

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7/16/2024, 2:35:52 PM

〝アレ〟が白や金色の光を放ちながら空にある時、私の周りの小さな世界は温かくなり、視界が一気に広がる。〝アレ〟の名前を私は知らないけれど、あの光があることでこの小さな世界の住人は生きる力を得ている気がする。

〝アレ〟はいつも空にあるわけじゃない。空に昇り、一定の時間になると姿を消して、また顔を出す。
全く姿を見せない日もある。そんな時はこの小さな世界も少し寒くて、視界も薄暗いまま。それがこの世界の営みなのだと知ったのは、ずっと後のことだった。

〝アレ〟の名前を私は知らない。
けれど最近、〝アレ〟と同じ温かさを持つ存在がこの小さな世界を訪ねてくるようになった。
それは〝アレ〟と同じくらい輝いていて、〝アレ〟と同じくらい温かい。
私の視線に気付いたそれは、青い綺麗な瞳を輝かせてにこりと笑った。
「こんにちは」
「×××××」
柔らかな声だった。空にある〝アレ〟が言葉を話したらきっとこんな声だろう。青い瞳と〝アレ〟に似た綺麗な髪。私は一目で心を奪われた。
それは何度か〝アレ〟が空に昇り、姿を消すを繰り返す間この小さな世界にいて私と一緒に泳いだりしていたが、しばらくすると「また来年、来ますね」と言って去っていった。

空に向けて顔を上げる。
青い空の斜め上に、〝アレ〟が金色の光を放って浮かんでいる。
「また来年、来ますね」
柔らかな声が頭の中に響いた。
「×××××」
その時胸に浮かんだ感情の名前を、私はまだ知らずにいる。


END


「空を見上げて心に浮かんだこと」

7/15/2024, 11:28:54 AM

「終わりにしよう」
「何をです?」
「私と君の間にあるもの全て、かな」
「お断りします」
「·····っ、君は、苦しくないのかい?」
「苦しいですよ。私とあなたの間にある全てが、悩ましく、悲しく、苦しい」
「だったら·····」
「でもあなたと私の間にあるものは全て抱えて生きると決めましたから」
「·····」
「悩みも、悲しみも、苦しみも、私の心の一部です。それを切り離して生きるなんて、生きる意味がないじゃないですか」
「·····私は、君に悩みや苦しみを与えている張本人なんだよ? そんな私と一緒にいて、君は·····」
「苦しいし、悲しいです。どうしたって私とあなたの間には分かり合えないものがある。でもね·····」
「でも·····?」
「それら全てを抱えてもなお手放し難い、喜びがあるんです。これだけはあなたがどんなに厭うても、譲る訳にはいきません」
「·····」
「あなたが何を考えてるか、大体分かります。それが変えようの無いものだということも」
「だったら」
「だからあなたも、目一杯悩んで、悲しんで、苦しんで下さい。そしてそれを飛び越えるだけの喜びを、二人で見つけましょう」

「·····終わりにするよ」
「あなたねえ·····」
「終わらせることばかり考えてしまうのを、終わりにする」
「――!」
「だからどうか、これからも·····」
「ええ、よろしくお願いします」


END


「終わりにしよう」

7/14/2024, 12:36:20 PM

「手を取り合ってこの困難を乗り越えましょう」

前向きで、力強くて、美しい言葉。
頑張らなきゃと思う。
後ろ向きになっちゃ駄目だと気が逸る。
弱気な心を追い出さなきゃと思う。

でも、思うだけ。
いつもいつも、この手を振りほどいて逃げ出したくなる。何もかも投げ出したくなる。泣き喚いて暴れたくなる。

それも、思うだけ。
後ろ向きで弱くて小心者の私は今日もどっちつかずのまま、中途半端な日々を生きてる。

END


「手を取り合って」

7/13/2024, 1:04:17 PM

胸の中に黒い泥のようなものが折り重なっていく。

声。話し方。眼差し。髪の色。歩き方。
背の高さ。浮かべた微笑み。
何気ない仕草の一つ一つが、他愛ない言葉の一つ一つが、どうしようもなく癇に障る。
こちらの皮肉に困ったように浮かべる笑みが、瞬間的に頭の奥を滾らせる。
無意識だから余計にタチが悪い。
視界に納めなければいいだけなのに、どうしたって視線が向かってしまう。

何も感じない筈の心が擦り切れ、熱を持つ。
相手はきっと感じた事などないのだろう。
「クソ·····」
こんな事で人であることを思い知らされたくなどなかった。

END


「優越感、劣等感」

7/12/2024, 2:33:30 PM

我慢してきたんだよ。
アンタ、機嫌損ねると滅茶苦茶めんどくさいから。
マウント取りたがる事も、仕切りたがる事も全部知ってる。他人にしょーもないルール押し付ける癖に、自分は楽する事や手を抜く事しか考えてない。
オマケに整える、元に戻す、意味を考えるって事をしない。だからアンタの使った後の倉庫はぐっちゃぐちゃ。物の位置がいつも変わってる。間違い探しじゃねえんだよ。
もっとタチが悪いことにアンタ、誰かに自分の意見や行動を否定されると相手のせいにするよな。
そういうところが滅茶苦茶めんどくさいんだよ。

めんどくさいのを相手にするとこっちの仕事が滞るから、ずっと我慢してきたの、分かった?

◆◆◆

なーんて、堂々と言えたらなあ!!


END


「これまでずっと」

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