せつか

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6/18/2024, 4:05:10 PM

「恋に落ちるという表現を考えた人は天才だね」
「·····あなたがそんな事を言うなんて、珍しいですね」
「なんだい、私が恋を語ったらおかしいかい?」
「おかしいです」
「にべもないなぁ」
「だって、〝人の感情なんて私には無いんだよ〟っていつも言ってたじゃないですか」
「うん。そうなんだけどね。私には感情なんて無いけれど、他人の感情はよく分かるのさ」
「·····」
「人の紡ぐ物語が大好きだからね」
「恋物語はあなたの好きなハッピーエンドばかりではないでしょう?」
「うん。でも、そこがいいし、それだけじゃないところもいい」
「私は·····あまり恋物語というのは分かりません」
「君はそうだろうとも。君が私に最初に語ったアレは、勘違いだからね」
「あなたの言いたいこと、今なら分かります」
「おっ、成長したね」
「怒りますよ」
「ごめんごめん。でも、成長というのは大人になっても、どうなっても出来るものだから。それを言うなら私だって成長してるのさ。·····多分」
「ぷっ」
「笑うなよ。真面目な話さ。物語を知り、感情を学び、他者との交流で自分を知る。素敵なことだよ」
「·····それが悲劇を招いても、ですか?」
「そうだよ。結末が悲劇だとして、そうして後悔を知ることも人には必要なんだ」
「後悔したくないと、みんな思っているのに」
「うん、そうだね」
――それが人間の悲哀であり、おかしさでもあり、愛おしさでもあるんだよ。

「あなたがそんな事を言うなんて、本当に珍しい。恋に落ちたのがあなたなのか、他の誰かなのか分かりませんが、幸せになれるといいですね」
「そうだね」


――多分、幸せになることと恋が叶うことはイコールじゃない。むしろこの恋はきっと悲劇になるだろう。
恋に落ちたという自覚が無いまま、終わるかもしれない。

昏い色をした目を思い出しながら、そんな事を彼は思った。


END


「落下」

6/17/2024, 1:58:04 PM

『薔薇色の未来』という言葉がある。
なぜ薔薇なんだろう?
薔薇は確かに鮮やかな色をしているけど、いつか萎れて枯れてしまう。それを見越して『薔薇色の未来』と言っているのなら、皮肉がきいているなと思う。
でも現実は、そういう意味で使われていない。
薔薇色の未来、薔薇色の人生という言葉には明るくて、華やかで、幸せなイメージしか湧かない。
そういうイメージを持つことで、少しでも前向きに生きようと自分を奮い立たせているのかもしれない。


END


「未来」

6/16/2024, 1:56:25 PM

今とだいたい同じことをしていたと思う。
平日なら仕事をし、土日なら家の掃除or買い物。
父の日が前後してたから、父に缶ビールを一本プレゼントしてただろう。特に言葉を付け加えたりはしていない。はい、とビールを差し出して、「父の日だから」。これだけ。あまり余計な事を言って調子に乗せてはいけない。(父は過去に一度、とあるやらかしをしたことがあるのだ。)
父は一言、「ありがとありがと」と言ってビールを飲んで「うまいなぁ」これで終わり。
私はそれ以上何も言わずに夕飯を食べる。

多分、来年も同じように私達は過ごすのだろう。
逆に特別なことはしない方がいいのだと思う。
毎年同じように過ごすことが出来る――。災害や、犯罪や、戦争に巻き込まれることなくそれが出来るのは、幸せなことなのだともう私は知っているから。

1年後も缶ビールを一本買って、はい、と父にビールを差し出せたらいい。


END


「1年前」

6/15/2024, 2:06:47 PM

絵本でも小説でも漫画でも料理本でも、何でもいいけど「好きな本はなんですか?」って聞かれてすっと答えられる人はなんかいいなって思う。

好きの定義は人それぞれだし、その人が好きな本を私が好きかどうかは別の話だけど、そういうものを大事に出来る人はいいなって思う。

でも、押し付けは駄目だしオタク特有の早口はちょっとどうかと思う。好きを語るにも語り方、っていうのがあると思うな。

END


「好きな本」

6/14/2024, 2:37:32 PM

晴れとか雨とか曇りとか雪とか。
晴れ時々曇りとかところにより一時雨とか。
どれもこれも人間が勝手に名前をつけて分類してるだけ。空はずっとずっと昔から、変わらず空としてそこにあるのに。
いや、違うな。
空という名前ですら、人間がつけたただの名前だ。

END


「あいまいな空」

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