さよならは言わないで、お別れはリムーブorブロックでお願いします。
…………リアルな人間関係でも出来たらいいのに。
END
「さよならは言わないで」
闇が無ければ光の強さ、眩しさ、あたたかさを知ることはなく、光が無ければ闇の濃さ、穏やかさ、冷たさを知ることはないだろう。
光しか無い世界の苛烈さも、闇しか無い世界の寂しさも、どちらも人には耐え難いものだから、人はそのどちらも求め、どちらも遮ろうとするのかもしれない。
一つだけ光源のある部屋で眠る時の、あの安心感はきっとそんな、根源的な恐れから来るものだと思う。
「なにぶつぶつ言ってるの、早く寝なさい」
「はぁい」
END
「光と闇の狭間で」
ガラス一枚なのに。
「これで良かったんだよ」
その声は余りに穏やかで。
「誰も死なずに済んで良かった」
自分はこれから死に向かうというのに。
「これが唯一の道なんだよ」
そんな筈が無い。そう叫びたいのに言葉が喉の奥にしまい込まれてしまうのは、自分が何を言ったところで彼の意思を変えることは出来ないのだと分かっているからだった。
「君と会えるのは今日が最後だけれど、君との時間は私にとってかけがえのないものだったよ」
そんな言葉は欲しくない。拳でガラスを殴りつけても、彼は身動ぎ一つしないで、微笑んでいる。
「あの方をよく支えて差し上げてくれよ」
そんな事を、笑いながら言うから――。
ガラス一枚隔てただけの面会が、何億光年も離れた宇宙からの最後の通信のようだった。
END
「距離」
「泣かないで」も「泣いていいよ」も、私には勇気のいる言葉だ。
よほど距離の近い者にしか、なかなか言えないと思う。涙なんて自分でコントロール出来るものではないし、泣くという行為はひどく体力を消耗する。
それでも溢れる感情を止められなかったり、どうにも出来ない心や体の痛みを紛らせるために人は泣く。
だからそれを止めたり、逆に許可したりなんて、私にはなかなか出来ないとてもハードルの高い言葉なのだ。
ただ一人それを安易に言ってしまってもいい存在があるとするならば、それは自分自身だろう。
END
「泣かないで」
彼は毎年同じ事を言う。
朝。
「布団から出るのが億劫になってきた」
昼は
「食堂から見えるイチョウがいつのまにか全部真っ黄色になっていたよ」
夜、帰ってくると
「オリオン座が凄く綺麗に見えたよ」
私は彼のこんな言葉で季節の始まりと終わりを知り、時の流れを知る。
黄色がどんな色かも、オリオン座がどんな形をしているのかも、まるで分からないのだけれど。
彼の声がそれはとても綺麗なものなのだと教えてくれるから、私にとって冬も、春も、夏も、秋も、どれもこれも美しく、世界はそれだけで生きる価値があるのだと思えてくるのだ。
END
「冬のはじまり」