おかしいな、と仕方なく目を覚ます。どうにも部屋が明るくて、せっかくの日曜日だというのに二度寝ができないのだ。
電気はもちろん完全に消している。だが、目を瞑ってもなんだか眩しくて、かといって窓の方へ目をやってもカーテンはしっかりと閉められていた。以前はもっと寝心地が良かったのに。
よっこらせと重たい体を動かし、洗面台へと向かう。未だに処分していない彼女用の歯ブラシが自分の歯ブラシと隣同士で立っていた。歯ブラシの処分方法なんて知らないし、そもそもまだ使えるし。そんな言い訳を並べながら、目を覚まそうと冷水を顔面にぶっかける。
「……アイ」
もうここを出ていった彼女の名を口にする。まだ目は覚めていないようだ。
部屋に戻り、キッチンとリビングが一緒になったワンルームを眺める。あのフライパンは料理好きな彼女が選んだもので、多機能な冷蔵庫もそうだ。やたら色違いが多いお皿やコップも、お揃いがいいねと一緒に買ったもの。
……ああ、そうだ。あの薄いカーテンも、彼女が選んだんだ。彼女が隣にいるだけでぐっすり眠れていたあの頃を思い出す。
今ではもう、隣で一緒に寝転んでくれる彼女がいない。僕はただ、薄いカーテンごと目を突き刺してくる鋭い光に指を刺されるしかなかった。
「星座って増えないのかなぁ」
「……増えない、んじゃない? たぶん」
時々彼女はおかしなことを言う。頭が良すぎるが故に我々とは話が通じないのだろう、と思われているが、私には違うように思う。
「なんで? 増えてほしいの?」
「だって、星座になってるのって神話の中のすごい人とか面白い人じゃん? 私がもし星座になれるくらいすごい人になっても、この先増えないなら意味ないじゃん」
「そう……だね」
彼女の話はだいたい中心がおかしい。他の人であれば、すごい人といえば生徒会長になるとか、ノーベル賞を取るとか、まあそんなところだろう。おそらく誰も星座を見てあの人はすごいんだなと思わないし、第一どの星と星を結べば星座になるかなんて知らないはずなのに。
いつもはそんな彼女の話に疑問を持ちながらも黙って聞いている私だが、今日はなんだか気分が違っていて、素直に今思ったことを尋ねてみることにした。
「星座になるよりノーベル賞取る方がすごいんじゃない? 誰が見てもそっちの方がすごい人だなあって思うよ」
「うーん……すごい人って思われたいわけじゃないの。ただ、見られたいというか……」
珍しく言葉に詰まる彼女。悩んでいる姿はなぜだかいつまでも飽きが来なさそうで、私にとっては癒しに近かった。しかし、そんないつまでもは来ず、ようやく顔を上げた彼女の頬は少し赤く染まっていた。
「……あなたが、よく夜空を見てるから」
「……え?」
赤い頬が移る。彼女が気を惹くのは、私だけで良かったらしい。