『失われた時間』
貴女が差し出してくれていた無償の愛に気付きもせず
なんなら 感謝もなくそれを当たり前のように感受して
心の穴を塞ごうと 灯台の照らす場所を手当たり次第に彷徨っていた
貴女は暗闇の中 灯台の下でずっと手を振ってくれていたというのに
愚か過ぎて泣けてくる程 私という人間が薄情で困る
小さな背で 背伸びをしながら覗き込んだお鍋
貴女と良く遊んだ アイロンビーズの甘い香り
三つ編みヘアに付けてもらったお気に入りのカラフルな髪ゴム
記憶の中には 日常と同化するように思い出が潜んでいて
なんでこれもまた愛であると気が付かなかったのかと悔やむばかり
貴女が入るだろう棺桶が予想より近くにあって
私は後悔しながら また失われた時間を抱きしめる
ごめんなさいと叫んで 愚かさを認めて
それなのに まだ今を生きる貴女を放ったらかしにして過去に縋るのは
変化を怖がる 私に巣食う弱い虫のせい
『2人だけの秘密』
今を生きる人類はインターネットに脳を侵略されて
善悪のボーダーラインを反復横跳び
感情をコントロール出来ずに振り回されているよ
理性なんてないに等しく自由などほとんどが偽物で
実際あるのは個人的好みと 本来の意味を失った過去の栄光
猿人に向かって退化を始めているその自覚も無いままで
威張り散らしながら緩やかに滅び行く
昭和の破天荒なロックスターくらいしかその事実を見つめたりしない
危機感なんてもっと無い
進める前に拾い集めろと 誰かの傷を置いていくなと
声を枯らした先駆者たちは既に 偏ったネットリンチにより亡骸となった
母さん ごめんだけどこんな絶望的な世の中に孫は産めない
希望のない人生に誰かを縛りたくもない
ただ粛々と
深夜2時のコンビニ 酒と煙草を買いに行くための散歩で
勝手に寿命が縮むなら最高だと終活に励もう
これがバレたら薄っぺらな説教を喰らうかもしれない
それはダルいからその時は何処かに引っ越そうぜ って笑う
濁った星空の下の2人だけの秘密基地
『優しくしないで』
優しさを知ったら
今まで受けた蔑みに気付いてしまいそうだった
温もりを知ったら
孤独や寂しさに気付いてしまいそうだった
「偽善でもいいから誰か助けて」と泣いた
ちっぽけで視野の狭い子供は
己の弱さも視野の狭さも知って
酸いも甘いも味わって
一人でも歩ける様になってしまったの
だから 優しくしないで今まで通り他人でいて
全部が今更なんだ
くじけたら僕は立てなくなってしまう
きっと憎んでしまうから
もしも 解ってくれるなら
お願いヒーロー助けないで
『カラフル』
世界は良くも悪くも規則正しい
だから 変わり者の僕は消化不良を起こすのだ
許せない 流せない
何も出来ないのに消えてもくれない
僕の心の中には大量の感情が泳ぐ
けれども
捕まえてみると解るんだ
角度ごとに何かが違うから
一つだって同じ感情が存在しないこと
人類だいたいこんなものなのだろう
僕だけじゃないの 知ってる
カラフルに乱反射する感情を見つめて
僕は見失った僕を想う
微かな軸は僕のモノ
纏う肉は集めた知識と経験則
君は本物かと己に問う
そんな日々すらもいつか 人生を彩るのだろうか
『楽園』
君の向こうに楽園が透けて見えるのは私が君を妬んでいるという証明
醜い自分が苦しかった
矛盾だらけの物差しは それを鵜呑みにする世の中は当たり前に憎くて
すぐ側にいた君が偶々象徴になっただけなのに 君も不憫だよね
でも 仕方ないこともある
例えばそう 私の手の中の石ころは君に渡せば宝石に変身する
同じ事をしても他者の視線の温度が違う
行動も知恵も塵になるから 愛と憎が同時に発生して真逆に走る
仕方ないのに己を否定する私のせいで 何処かが痛む
少なからず愛しているのだとその時に気付いて
呪いと懺悔を繰り返す
外の声ばかり聞きすぎて疑心暗鬼で下から睨みつけた
君は無垢に見つめ返してくるから腹立たしかった
私を辿るように苦しむ君にさえ 比べるように軽さを見出して
青い春を振り返れば今更の羞恥
穢れの染みた指先で触れるのを迷った
けれど
思えば そんな私もまた君から見れば楽園の住人みたいだ
誰も彼もないものねだり
5月なのに夏みたいな気温で 地球も悲鳴を上げてるし世も末だね