hinadori

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『失われた時間』



貴女が差し出してくれていた無償の愛に気付きもせず
なんなら 感謝もなくそれを当たり前のように感受して
心の穴を塞ごうと 灯台の照らす場所を手当たり次第に彷徨っていた
貴女は暗闇の中 灯台の下でずっと手を振ってくれていたというのに
愚か過ぎて泣けてくる程 私という人間が薄情で困る

小さな背で 背伸びをしながら覗き込んだお鍋
貴女と良く遊んだ アイロンビーズの甘い香り
三つ編みヘアに付けてもらったお気に入りのカラフルな髪ゴム
記憶の中には 日常と同化するように思い出が潜んでいて
なんでこれもまた愛であると気が付かなかったのかと悔やむばかり

貴女が入るだろう棺桶が予想より近くにあって
私は後悔しながら また失われた時間を抱きしめる
ごめんなさいと叫んで 愚かさを認めて
それなのに まだ今を生きる貴女を放ったらかしにして過去に縋るのは
変化を怖がる 私に巣食う弱い虫のせい

5/13/2024, 2:42:59 PM