君の背中
泣いている君の涙を拭い、抱きしめる
泣き疲れた君をベッドに運び、髪を透かす
泣いて眠った君の頬に口づける
俺が君にできる唯一のこと
それだけでよかった
でも心のどこかでもっと君の力になりたい
君を泣かせるものから君を守ってやりたい
だから君から離れて君を守れる力がほしかった
そんなこと君は望んでいないのに、自分自身が情けなくて悔しくて愚かだったから飛び出した
また君の元に戻って胸を張って迎えにいくために
なのに、なんだこれ
何で俺は君を怒鳴りつけているんだ
君が一番大切なものに矛先を向けているんだ
俺が先に背を向け逃げ出し、盗み見るように君の背中を見遣った
ひどく小さくなったその背中をたまらなく抱きしめたいのに、手を伸ばしたいのに、もう何も届かない
遠く…
すぐ近くにいたはずなのに
隣りで手が触れるとそっと手を取ってくれた
寄り添って隣に座ってくれた
我が儘ばかり言って、泣き言ばかり言って
それでも優しい言葉をくれた
一緒に頑張ろうって
それに甘えてたんだろう
隣りにいてくれるのが当たり前になりすぎて
あなたが私と対立するなんて思ってもいなかった
自分の浅はかさがいまとなっては馬鹿すぎて
感情を露わにしたあなたの声が刺さる
遠ざかっていく背中がただ遠い
やさしくしないで
中途半端な優しさを振り撒かないでほしい
反応もらえて、話かけられて、そりゃ仲良しかもって勘違いしてしまうでしょ
また反応もらえるかな、話しかけてもらえるかなって期待してわくわくしながらスマホを眺める
まだかな、なんてそわそわし始めて
今日は忙しいのかも、寝て起きたらきっと通知きてるよね、って寝れない目を無理矢理閉じた
無駄にスマホを触らないように、見ないように、スマホを遠ざけていざ開いてみたのに通知なし
もうやだ、期待させないでよ、もうほっといてよって落ち込んだ
やっぱりアカウント消して見てるだけが1番楽だし、自分の時間増えて楽しい!
小さな世界にしがみつかないで広い世界に飛び出そうよ!
バイバイ
しんみりした雰囲気って嫌いなんだ。
別に喧嘩した訳でもないし、嫌いになった訳でもない。
ただもうあなたと一緒にいられないだけ。
お互いにやるべきことがあるから、それを成すべく頑張りましょうってこと。
いまで側にいてくれありがとうの感謝の気持ちは伝えたし、笑ってさよならも言った。
去って行くあなたの後ろ姿に手を振り、バイバイって言葉が自然と溢れおちた。
あれ?おかしい。
あなたの背中がぼやけてきたんだけど。
鼻水まで出てきた。
意味わからない。
彼とは真逆の方向に私は歩き出した。
まだ知らない君
泣くんだ、そう思った
ひとを惹きつけるように大きな声で教室の中心で話す君を見て、悩み事もなさそうお気楽奴なんだと遠巻きで眺めていた
ころころと変化する表情に忙しそうだなと
笑って、怒って、また笑って、大変そうだ
長引いた委員会の会議が終わって、やっと解放されことで無意識に早足になりながら教室に向かった
荷物を取って早く帰路に就きたい
待ちに待った週末は何をしようかと柄にもなく考える
教室の扉は開いていて、クラスメートはもういないんだろうと中に入ると、ぽつりとひとり窓辺に立つ人影がみえた
夕陽に染まるそのひとの頬に無数の雫が音もなく流れていく
どくんって心臓が跳ねた
待て待て、おかしいだろう、何だよこれ
泣くんだ珍しいって思っただけなのに、何でけたたましく鼓動が動いているんだ
抱きしめたいとか、可愛いとか、抱いたことのない想いが流れ出してくる
やめろ!何だこれ!
人の気配を感じたのか振り返った彼女と視線があって、慌てたように涙を乱暴に拭う彼女から目が離せない
「まだ残っていたんだ」なんてぎこちなく笑いかけられ、一気に頬が熱くなる感覚がした
「顔赤いけど大丈夫?」とこっちの心配をし始めたお人好しに近づくなと叫びそうになって、屁っ放り腰で後退り逃げた
「大丈夫だ!!」と捨て台詞を吐いて廊下を走る
優等生で通っているのに、廊下なんて走っているところを見られてみろ、俺のイメージが崩れるのにかまってられなかった
くそっ、なんだよあれ!あんな知らない表情を見せられたら、俺だけが知っている君だと思うだろう!!
勝手に恋に落とすなよ!もう最悪だ
鞄も取り損ねたし、どうするんだよ