まだ知らない君
泣くんだ、そう思った
ひとを惹きつけるように大きな声で教室の中心で話す君を見て、悩み事もなさそうお気楽奴なんだと遠巻きで眺めていた
ころころと変化する表情に忙しそうだなと
笑って、怒って、また笑って、大変そうだ
長引いた委員会の会議が終わって、やっと解放されことで無意識に早足になりながら教室に向かった
荷物を取って早く帰路に就きたい
待ちに待った週末は何をしようかと柄にもなく考える
教室の扉は開いていて、クラスメートはもういないんだろうと中に入ると、ぽつりとひとり窓辺に立つ人影がみえた
夕陽に染まるそのひとの頬に無数の雫が音もなく流れていく
どくんって心臓が跳ねた
待て待て、おかしいだろう、何だよこれ
泣くんだ珍しいって思っただけなのに、何でけたたましく鼓動が動いているんだ
抱きしめたいとか、可愛いとか、抱いたことのない想いが流れ出してくる
やめろ!何だこれ!
人の気配を感じたのか振り返った彼女と視線があって、慌てたように涙を乱暴に拭う彼女から目が離せない
「まだ残っていたんだ」なんてぎこちなく笑いかけられ、一気に頬が熱くなる感覚がした
「顔赤いけど大丈夫?」とこっちの心配をし始めたお人好しに近づくなと叫びそうになって、屁っ放り腰で後退り逃げた
「大丈夫だ!!」と捨て台詞を吐いて廊下を走る
優等生で通っているのに、廊下なんて走っているところを見られてみろ、俺のイメージが崩れるのにかまってられなかった
くそっ、なんだよあれ!あんな知らない表情を見せられたら、俺だけが知っている君だと思うだろう!!
勝手に恋に落とすなよ!もう最悪だ
鞄も取り損ねたし、どうするんだよ
帽子かぶって
さて、準備はできた。
あー、やだって思うけどやらないとしょうがない。
初めは楽しいんだけど、だんだん腕も腰も痛くなってやりたくなくなっちゃう。
今だってしんしんと降り続いてる。
嫌になっちゃうな。
愚痴愚痴言ってても振るもんは降るんだし覚悟を決めて、帽子かぶって、いざ!雪かきへ!
うえー、膝まで積もってるじゃん。
やっぱり引き返していい?
ぬくぬくのこたつが私を呼んでるんだけど…
終わらない物語
快晴な空に花びらが舞いあがり、歓声が辺りを包みこんだ
おめでとう、お幸せに、
祝福されながらふたりは一歩一歩と階段を降りていき、寄り添いながら進む
いままではひとりずつの物語を歩んできたけど、これからはふたりの物語を紡いでいく
ゴールじゃなくて、新しいスタートをきろう
終わらない物語のはじまりだ
やさしい嘘
きみはいつだって僕に嘘をつく。
もうそばにいてくれなくていい。泣いてばかりだったあの頃とは違う。知らないだけで私は強くなったから大丈夫。そばにいられるほうが迷惑だ。いつまでも支えている気になってるけど、私はそんな甘ったれじゃないから。感謝はしてるよ。でももういらないや。バイバイ。
そう言って手を振った彼女の背中を見送る。
いつもは背筋をぴんっと伸ばして歩くのに、背中が小さく丸まって、肩は小刻みに揺れている。
僕は知っている。ひとりになったら泣くんだろう。
ごめんなさい、許してって言いながら人知れず泣く姿が目に浮かぶ。
僕を手離すことが僕のためだなんて思って、僕の手を離したきみはなんて馬鹿なんだろう。
やさしい嘘で自分自身を傷つけてボロボロになっていく。
そんなきみがなによりも愛おしい。
ぼくはきみの嘘を受け入れてやるほどお人好しじゃないから。
絶対に離してなんかやらない。
瞳をとじて
瞳をとじてってこのワンフレーズだけで昔流行った映画を思い出す
むしろそれしか出てこないくらい頭に刷り込まれている
瞳をとじて、君を描くよ、まで意識しないでも脳内にメロディーが鳴り響く
これって一種の洗脳なのかな?
ちょっと前にこの映画を久しぶりにみたんだけど、主人公が昔の初恋の人との思い出を巡っていた
そんな内容だったっけと思った
正直、助けてくださいしか覚えてなかった
記憶ってそんなものなんだよね
それなのにこの主題歌はずっと残っている
音楽ってフレーズもメロディーも刷り込んでくるからすごい
いつまでも消えないんだろうな、恐るべし