やさしい嘘
きみはいつだって僕に嘘をつく。
もうそばにいてくれなくていい。泣いてばかりだったあの頃とは違う。知らないだけで私は強くなったから大丈夫。そばにいられるほうが迷惑だ。いつまでも支えている気になってるけど、私はそんな甘ったれじゃないから。感謝はしてるよ。でももういらないや。バイバイ。
そう言って手を振った彼女の背中を見送る。
いつもは背筋をぴんっと伸ばして歩くのに、背中が小さく丸まって、肩は小刻みに揺れている。
僕は知っている。ひとりになったら泣くんだろう。
ごめんなさい、許してって言いながら人知れず泣く姿が目に浮かぶ。
僕を手離すことが僕のためだなんて思って、僕の手を離したきみはなんて馬鹿なんだろう。
やさしい嘘で自分自身を傷つけてボロボロになっていく。
そんなきみがなによりも愛おしい。
ぼくはきみの嘘を受け入れてやるほどお人好しじゃないから。
絶対に離してなんかやらない。
瞳をとじて
瞳をとじてってこのワンフレーズだけで昔流行った映画を思い出す
むしろそれしか出てこないくらい頭に刷り込まれている
瞳をとじて、君を描くよ、まで意識しないでも脳内にメロディーが鳴り響く
これって一種の洗脳なのかな?
ちょっと前にこの映画を久しぶりにみたんだけど、主人公が昔の初恋の人との思い出を巡っていた
そんな内容だったっけと思った
正直、助けてくださいしか覚えてなかった
記憶ってそんなものなんだよね
それなのにこの主題歌はずっと残っている
音楽ってフレーズもメロディーも刷り込んでくるからすごい
いつまでも消えないんだろうな、恐るべし
あなたへの贈り物
贈り物って言えるほどの大それた物じゃないけど、目元をくしゃってさせてはにかんで「ありがとう」って言って受け取ってくれる姿が容易に想像できる。
私があげたしょうもない物ですら大切にしていてくれる彼。
無くさないようにってブリキの缶に入れてるんだって、頬を緩ませながら言った顔が忘れられない。
またくれるのを楽しみにしているよって、子どもみたいに目を輝かせて言うものだからあなたへの贈り物を今日も探している。
海で拾ったシーグラス。森で拾った松ぼっくり。
季節が移り変わるたびにあなたと一緒に見た宝物。
桜の花びら、銀杏や紅葉の落ち葉、向日葵に朝顔、雪の埋もれた南天の実。
ありきたりな物だけど、ふたりの思い出が詰まっている。
これからもあなたに贈っていきたいな。
明日に向かって歩く、でも
立ち止まりたいけど、立ち止まれない
マグロのように進み続けて生きていくしかない
明日に向かって、それって未来ってことでしょ
歩き続けて壁にぶつかって、何もかもが嫌になる
明日に向かって歩く、でも歩きたくなんてない
いっそのこと立ち入り禁止の看板を掲げて歩けないようにしてほしい
ここからは進入禁止ですって止めてよ
立ち止まっていい言い訳を頂戴よ
ただひとりの君へ
きみへの想いの感情を否定して疑って、どうして出会ってしまったんだろうと後悔に苛まれたときもあった。
守ってやらないと、そばにいて支えてやならいとなんて決めつけて、本当に必要なときにはそばにいることをしなかったくせして。
どこで間違えたか自問自答を繰り返しても答えなんてひとつもわからなかった。
きみが泣かないでいいように。屈託ない笑顔で笑いかけてくれるように。そう望んだだけだったのに。
君を傷つけたことをただ謝るばかりだ。