おへやぐらし

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3/2/2024, 4:48:46 PM

「必ず迎えに行くからね」

そう言って涙を流しながら
あたしを抱きしめてくれた
彼女の顔が今でも頭から離れない

男手ひとつであたしたちを育ててくれた
お父さんが事故で亡くなった

まだ幼くて頼る大人もいなかった
世間知らずのあたしたちにできることは
かぎられていて

あたしたちは離れ離れになった

一日中働いて酷いこともたくさんあった
でも悲しいことがあった日は楽しかった頃を
思い出すと元気が湧いてくる

彼女の笑顔 彼女の眼差し
彼女の匂い 彼女の温もり

お金をためてここを出て彼女を探しに行くんだ
それがあたしの唯一の希望だから

お題「たった1つの希望」

2/27/2024, 3:04:26 PM

孤児院での暮らしは最悪だった
他の子よりも小さくて臆病だった私は
いじめの対象にされた
靴を隠されたり貴重な食べものをとられたり
ああ、誰か私をここから連れ出して

私を引き取ってくれた家は窮屈だった
彼らに嫌われたくない私はいい子を演じ続けた
もうすぐ歳が一回りほど離れている
相手と結婚させられてしまう
ああ、誰か私をここから連れ出して

私を窮屈な家から解放してくれた彼は最低だった
最初はとても優しかったけれど
結婚してから変わってしまった
ろくに働かず文句を言えば暴力をふるう
ああ、誰か私をここから連れ出して

お題「現実逃避」

2/24/2024, 10:34:01 PM

小さな命が家にやってきた

その日からみんなの関心は
小さな命のほうへ行ってしまった

お母さんもお父さんも
おばあちゃんもおじいちゃんも

みんなみんなそいつのことを
かわいいかわいいと褒めたたえた

小さくてかわいくて守ってあげないといけない
いきものがみんな好きなんだ

だから自分みたいに大きくなって
かわいさが失われたものには興味がないんだ

ゆりかごの中で眠る小さな命を見つめる
ふっくらとした頬とミルクのかおり

みんなの心をうばうじゃまものは
この手で刈り取らないといけない

お題「小さな命」

2/17/2024, 4:06:27 PM

僕のお気に入り
それは何よりもかけがえのないもの

温かな体温
柔らかな肌
甘い香りの髪
鮮やかな赤

だけど僕がお気に入りを
愛でられるのはほんの一瞬

それはだんだんと冷たくなって
色は変わり、異臭を放ち、腐敗して
やがては朽ち果てる

僕は新しいお気に入りを
探しに旅へ出た

お題「お気に入り」

2/11/2024, 12:00:08 PM

「この場所で何があったかご存知ですか?」

暗い山道の中、
車を走らせながらタクシーの運転手は聞いた。

「いいえ。何かあったんですか?」

「若い女性が殺されて、この辺りに捨てられたらしいですよ。怖いですね~あなたも美人だからくれぐれも気をつけてください」

そんな話を今しないでよ
不快感と恐怖で身体をこわばらせていると
運転手が途中で車を停めた。

「あの、どうしましたか?」

運転手はゆっくりと後ろを振り返ると
ニタリと笑った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ため息をこぼしながら運転手は
フロントガラスに付いた汚れを掃除していた。
この場所を通る時はいつも以上に汚れる。

大量の手形を拭いていると、
一つだけどうしても取れないものがあった。
それは何度試しても落ちなかった。

お題「この場所で」

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