10分前、君から来たLINE。私は見れないでいた。些細な言い争いだった。始まりは何か覚えていないぐらい、どうでも良いことで幼稚な口論が起きた。お互いの悪い癖、カッとなるとひたすらに言い争う。どちらが悪いというものではない、むしろどちらも悪い。ふと我に返り少しバツ悪く、私はその場から逃げてしまった。そして今に至る。十数分、私はずっと画面を見つめている。見てしまったら、逃げられない。ふっと軽く息を吐き、スマホを手に取る。君が伝える文字は一体なんだろうか。謝罪か、それとも先程の続きか。不機嫌な心に反して、顔が少しにやけていることを自覚しながら画面を軽く叩いた。
#開けないLINE
もういない貴方の部屋でベットに寝転びながら、目を閉じた。貴方の部屋は本が積み重なっていて、少し埃っぽい。本の話をする時の貴方はキラキラとしていて眩しかったのを覚えている。そんな本の虫な貴方に、私があげた香水。ウッディ系の落ち着いた、貴方の雰囲気にぴったりだと思って買った香水。あまり嬉しそうではなかったけれど、この部屋に漂う本とは違う木の香りによく使っていてくれたことがわかり嬉しさが込み上げた。暖かな光と積み上がる本、そして香水。あと足りないものは、貴方だけ。貴方が居た痕跡はこんなにもあるのに肝心の貴方だけがいない。どこに消えってしまったのか。いつ帰ってくるか。この匂いが消えてしまわないよう、私はまたここに来る。貴方とお揃いの香水を纏って、貴方がくれた合鍵で。貴方の痕跡を確かめるように、少しだけ大きく息を吸った。
#香水
何時間も降り止まない雨の中、私はずっと佇んでいた。髪も服も靴も全てずぶ濡れで、まるで濡れ鼠だと自分を嘲笑して目を瞑る。それでも雨に濡れることはやめない。雨に当たっていれば、内にある激情が流されて熱い心は冷えるような気がするからだ。冷えた頭に雨声が反響する。身体が冷えていくほど、心は熱を帯びるようで。雨の中佇む自分が馬鹿らしくなり、屋根下までゆっくりと歩いた。雨はまだやまない。
#雨に佇む
私は基本文章を書く際、何にもイメージがないときには性別、年齢など様々な捉え方が出来るよう、一人称は「私」や「自分」などに統一している。これは私のそれらに囚われたくないという、少しの意地だ。毎日書くわけではない。思いつかないこともあるし、気分じゃないこともある。それでも文を綴り始めるときはその時の感情が文に多く影響するような気もする。ふと思いついた物語を自分の感情と共に文にする。毎日は書けないけれど、これは私の日記なようなものだ。少しずつ、書いていく。少しずつでもページが増えていくのが楽しいのだ。
#私の日記帳
強く私の腕を引く手に苛立ちを感じ、少し顔を顰める。静止の言葉など貴方の耳には入ってこないようで、腕の力はどんどん強まっている。何も語らず私を引きずるその様子に少し不気味さを感じ、人生で1番の大声で貴方の名前を呼び全身の力を精一杯込め抵抗した。初めて、貴方の動きが止まって私と向き合った。黙りこくって俯き、顔を背ける貴方の顔を手で強引に私に向かせる。その表情は泣きそうでいて、苦しそうで、それでいて。こうして向かい合わせにならないとお互いの感情も表に出せない私たちは、きっとこれからも何かとぶつかっていくのだろう。それでもこうして向かい合うことは、心を通じ合わせる私たちだけの手段なのだから。
#向かい合わせ