ミカン飴

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9/3/2023, 12:32:14 PM

 些細なことでも、ひび割れはあっさりと広がってしまう。
 今のあたしとカレシの関係がそうだ。
 きっかけは、目玉焼きにはしょう油か、ソースか、という話題をテレビで見ただけだった。
 あたしは、
「目玉焼きにはしょう油だよねえ?」
 と笑いながら、軽くカレシーー明というーーに聞いた気がする。
 しかし明は真面目な顔をして、
「いや、目玉焼きには塩」
 と断言した。
 あたしは冗談かと思って、
「なにそれ、ウケる」
 と言ってしまった。
 返ってきた言葉は、
 無言だった。
 つまり、シカトされた。
 明は静かにキレていた。
 それから一週間たったけど、
 明は返事をしてくれない。
 あたしは朝ごはんの目玉焼きに、
 怒りに任せてしょう油をかけるのだった。
 ……もちろん、明の分にまで。

5/21/2023, 10:35:40 AM

 水が透明であることが当たり前じゃない、と知ったのは、子どもの頃、祖父母の家に遊びに行った時だった。
 車で田舎の道を走っていた。私は母のスマホでゲームをしていたが、父の
「○○○、川が茶色いよ」
 の声で、私は窓の外を見た。
 普段透き通っていた川は、見たこともないぐらい、汚く濁っていた。
「パパ、川がコーヒー牛乳みたい!」
 と私は言った。
母が、鈴を転がしたような声で笑った。
 その日、私は祖父母の家に泊まった。

 一晩経った川の水は、元のように透明に戻っていた。
 
 大雨の後の川は濁る、ということを知識として知っている今の私は、多分もうあの頃のように透明じゃない。

5/8/2023, 11:32:13 AM

一年後。
彼女は俺と別れるなんて知らない。

一年後。
俺は部活をやめるなんて知らない。

一年後。
俺は妹が結婚するなんて知らない。

一年後。
俺は海外に行くなんて知らない。

ただ、今の幸福を貪るだけ。

5/7/2023, 11:23:19 AM

自己紹介で、君は言葉を噛んだ。
みんなは笑って、君も笑った。
そんなどうでもいい瞬間が目に焼き付いて、
今も私の頭から離れない。

5/6/2023, 12:09:45 PM

 あくまで、それは例えばの話だった。
「明日世界が終わるならどうしたい?」
 遥は紙パックのジュースを片手で潰しながら、
「そうだねえ。とりあえず、あんたの隣で夕日が沈むのを見たい」
 と言った。あたしは驚いて、
「もっと他にないの?」
 と聞き返した。
 遥は照れている様子もなく、
「ダチの隣で死ねるならホンモーじゃん」
 と言ってのけた。

 ……そうだね。遥。
 事故に遭ったあたしは、遠のく意識の中で親友に呼びかける。
 最後に遥の笑顔、見たかったよ。

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