鳥かご
幼い頃から、不思議に思っていた、母の実家へ行くと、いつも、ドキドキする所が、あった
母は、そこは、古くて、綺麗でないから、行っては、だめよ、と行く度に言っていた
今年から、小学校に入学するからと、挨拶に行った時、とうとう、その機会が、巡ってきた
ここは、明治になってから、建てられた、俗に言う洋館と呼ばれるもので、戦災等にも、あわずに今でも、綺麗な姿をしていると、子供心にも思っていた
祖父が、ニコニコした優しい顔で、おじいさまが、よく、どこそこの伯爵様や御令嬢が、よく、いらして、華やかなな、舞踏会が、行われていたと、よく聞かされたと、
いかにも、年代物と、思われる真鍮製の鍵で、鍵穴に入れようとした、瞬間、思わず、お母様が、駄目だと言っていたと口から、出てしまった
祖父は、やや、低い声で、もう、いいんだよと、その横顔は、寂しそうに見えた
ガチャリと言う音は、何故か、鳥肌が立ってしまった
吹き抜けの天井から、眩しい光が、斜めに差している
祖父のコツコツとした、革靴の音が、ホールに響く、大きなガラス窓の下まで行くと、花台のシーツをサーと取ると、キラキラとした金属製のものが、あった
それが、鳥かごだと知るのは、少し後になってからだ、ただ、美しい、そして、欲しいと、思った
そんな心を知ってかどうか、祖父は、また、ニコニコした優しい顔して、そら、どうぞ、と渡してくれた
私は、少々、戸惑った顔をしていると、後ろから、母のまあ、良い物を頂いたのねと明るい声で、救われた
大学生になり、ここに訪れた時、すっかり、様子が、変わり、大きなマンションが、無機質な佇まいを
あの時の宝物は、今では、我が家の娘の宝物になっている
朝から、爽やかな、音色が聴こえてくる毎日
花咲いて
お爺さん、お爺さん、起きて下さい
シロが、いつになく、大きな声で、鳴いている
とうとう、袖口まで、引っ張るようになった
どうした、お腹が空いているのか、少し待っておくれ、
お爺さんは、ふと、お婆さんが、居てくれたら、お前にも、ひもじい、思いをさせずにすんだのにと、少し目頭が、熱くなるのでした、
どっこらしょと、言いながら、お爺さんは、薄い布団を上げるのでした
シロが、待ってましたと、言わんばかりに、一目散に走り出しました
おい、シロ、待っておくれ、お爺さんは、腰にぶらさげた、少し擦り切れた、手拭いで、溢れる汗を拭いながら、だんだん、シロの姿が、小さくなっていくのが、少し不安な、気持ちになってきた
丘を越えた辺りで、シロが、少し、寂しげに鳴いている声が聞こえてきた
丘の上まで、戻って来て、尻尾を振っている、姿が見える
早く、おいでと言っているようだ
風が、ヒューと背中を押してくれる
鳥さんたちも心配そうにお爺さんの背中を見ながら、おしゃべりをしている
ようやく、丘の上に辿り着くと、
そこは、真っ赤な彼岸花が、辺り一面、咲き誇っていた
シロが、優しい声で、ここだよ、と、教えてくれた
お爺さんは、呆然と立ち尽くし、涙が、止まらなかった
慈悲深いお顔した、お婆さんが、微笑んでいた
シロが、天に向かって、閃光を放っていた
心地よい風が、いつまでも、良い香りとともに流れていた
もしも、タイムマシンが
ブラックホールに行ってみたい
時空をからだで、感じてみたい
色、音、感じれる、凄さは、あるのだろうか
いったい、戻ったら、良いのか、進んだら、良いのか
時間の概念は
おーい、と、叫んでみる、
おーい、と、誰か、叫んでる、正確には、叫んでる気がする、と、言ったほうが、良い、なんだか、いつまでも、いつまでも、叫んでる、気がする、知らない、数式の方程式が、脳裏をかすめ、黒板にチョークで、書いては、消してまた、方程式が、次々と現れては、消え、
えっ、ホワイトボードじゃないの、妙なことには、冷静さを失わない自分は、何なんだろう
どれぐらい、時が、超えているのだろう
なんだか、楽しく、なってきて、
なんだか、どうでもよくなってきた、
なんだか、だんだん眠くなってきた
閃光を感じて、真っ白になった
そんな、気がした
今一番欲しいもの
赤ちゃんは、何を欲しがるのだろう、
男の子は、どうだろう
女の子は、
大人は、
学生になると、
社会人になれば、
結婚すれば、
子供が、生まれたら、
孫ができたら、
人が、亡くなったら、
無限
そして、無限大
結局は、♾
琵琶乃師長
いにしえに尾張国に謫居の身をやつし、日々、徒然なるままか、慰みに白菊を奏で、都へのおもいは、熱田大神さまをも、揺り動かせ、都に戻る際には、最愛のひととの永遠の別れも、白菊とともに河の淵深く眠るひとは、いづこや
内裏の御簾から、青き空を垣間見れば、音もなく、ひらひらと、蝶が、舞っている
最愛のひと、来てくれたんだね、
もう、こんな、季節になってしまったんだなあ
瞳から、ひかるものをそっと、笏で、隠し、ひとつ、小さな咳払いをし、凛となる
えもしれぬ、心地良い風が、頬をよぎる
あゝ最愛のひと、嬉しくて、嬉しくて、仕方ないけど、私をもう、許しておくれ、
いつの間にか、陽は、傾き、ひぐらしが、遠くで、鳴いている
内裏の篰も、下ろされて、しまった