消えない焰
疑いは一度灯ると中々消えない。
僕の中ではいつもそうだ。
寝ようとする中にもちらちらと揺れて心と頭をつなぐ糸を焼き切ろうとしている。
だから君のことが好きだった。
君のことは疑わなくてもよかったから。でもね、存外僕は君のことを信じ切っていなかったみたい。
「好きだよ」
って、それどこ見て言ってんの?
終わらない問
テスト週間中、僕は悪夢を見る。数学の問題を一生解かさせられる悪夢だ。どういう問題なのかは全く分からない。けれど因数分解や2次関数のようなものだった気がする。ただひたすらに数字が並べられていて、僕も何らかの法則に従って数字を書き続けていた。
そういう夢を見るときはもちろん数字の勉強をした後た。別に、枕元に問題集を置いているわけでもないのに勘弁してほしい。そしてこの問は永遠と続いて僕に苦痛を与えるが、その内容は頭の片隅にも残っておらず、まったく無駄なのだ。
一体何のためにこんな悪夢を見なければならないのだと僕は考える。それ自体が3回目以上のことだった。
揺れる羽根
羽根が靡いている。上下の動きの中で風に晒され震えている。その中の1枚が蜘蛛の巣に落ちる。蜘蛛は動かない。ゆらゆらと羽根が風に揺れている。
揺れる羽根は何も扇がず、擽らず、微睡みを誘うこともない。もう、役目を終えた抜け殻。セミの抜け殻のように集められることもない。
1枚では何の意味もなさない羽根。あんなに力強く、人々に空への憧れを灯す肉塊を動かした羽根の1枚はただのゴミに成り下がる。鳥は、まだ飛んでいるのに。
秘密の箱
秘密の箱といえば宝箱のことなのかなって思う。私ももちろん宝箱というか、宝物ボックスみたいなものを作っていた。アクリルの塊、シーグラス、どこのかよく分からない鍵、お年玉にもらった五百円玉。ちっちゃな私のちっちゃな宝物が、そこにはぎゅうぎゅうに詰まっていた。
友達がくれた折り紙も、妹がくれたビーズも入っていた。そんなことを今更になって思い返す。だって、もう要らないと思っちゃったんだもの。捨てちゃうよね。
今朝、ゴミ捨て場に捨てられていたはずの宝物ボックス、私は秘密の箱と呼んでいたと妹は言った。気になって中を見てみたら、自分があげたビーズが捨てられていたものだから箱を掴んで私のもとに走ってきたらしい。
大泣きする妹に面倒だと思いつつも、妹の頃の年齢の私も、宝物ボックスが捨てられたらこれくらいは泣くだろうなぁとも思っていた。忘れていたのだ。私と妹にはかなりの年の差があって、その頃の私は妹よりずっと泣き虫だったのに。ちっちゃな私の気持ちはとても遠くなってしまった。
ごめんね、これからは大事にするよと言って妹をなだめるうちに、自分がわざわざ五百円玉を抜かずに捨てていることに気づく。本当は、私は、宝物ボックスを捨てたくはなかったのかもしれない。
私の秘密の箱、これからは私と妹の秘密になったけど、もう少しとっておこうかな。ちっちゃな君が、遠くなるまで。
無人島に行くならば
もし無人島に行くならばって、それ、どういう時なのかなっていつも思う。でも、私たちの住んでる町の海から見えるあの島は無人島で、本当に誰も人がいないんだって。ずっと、昔から。
だから、だから君は突然海に行ったの? もう寒い時期なのにおかしいなって思ったんだ。寒いから服の1枚も脱がないで行って、大変だったでしょ?
無人島に行くならば、私のことも連れてってよ。君は、どこに行ったって一人には成れないんだから。
私と一緒がいいでしょう?