踊りませんか?
そう声をかけてきた君は緊張していたね。
顔を見たらすぐにわかったよ。
いつも先生先生と子犬のような君が、
隊服姿しか知らない君が、
タキシードなんて着ちゃってさ。
ふふ、失礼。
今のは別に似合ってないとかそういうのじゃないよ。
うん。そうだね。踊ろうか。
巡り会えたら
運命だとか言われても、そんなもの信じていない。
運ってなんだよ。
自分の意志や行動とは関係ないじゃないか。
全て天任せ。偶然の産物。奇跡。
そんな突然降ってわいたモノに価値なんてあるものか。
巡り会いたい。これは私の意思だ。
だから。
巡り会えた時、それを運命だなんて言わせない。
必然だ。
たそがれ
少し肌寒くなってきたな。と男は身をすくめた。
空を仰げば赤と青が混ざったような空の色。世の人々は美しいというが男はこの色を綺麗とは思えなかった。何故なら、この時間帯が嫌いだからだ。ろくなことがあった試しがない。
遠くで名前を呼ばれた気がした
振り向けば誰かがこちらに手を振っている。
誰だ?
男は目を細めて顔を確認しようとする。
その黒は変わらず手を振っているだけだ。
ああ、ほら、また、名前を呼ばれた。
麦わら帽子
立ち竦む自分の周りにあるのは、呆れるほどに青い空と、蠢く白い雲。笑う草木。
夏なんて嫌いだ。
暑いだけで、何も良いことなんかないじゃないか。
「どうしたの?」
そう言って覗き込んでくる君の麦わら帽子が日影をつくる。
「夏は嫌いだ…」
顔を歪めてそう呟けば、君はくすくすと笑う。
なにがおかしい?
更に不機嫌に歪んだ私の眉間を君はこづくんだ。いつも。
「でも私は君と会える夏が好きだよ?」
太陽を背にしているから、君の表情はわからない。
けれど、その麦わら帽子は毎年変わらずに、そう言っていたね。
『鐘の音』
鐘の音が聞こえる。
これは、なんだっけ…
昔、子供の頃に、聞いたことがある気がする…
なんだっけ…
誓ったとき?
祈るとき?
年の瀬?
いつ、聞いた。
どこで、聞いた。
なぜ、聞いた。
……これは 何の鐘の音だ