私の人生はその人1人の為にあった。
いつも優先するのは彼女のライブ配信とラジオ。
彼女の声を聞いて、側に存在を感じることが何よりの幸せだった。
彼女をこの目で見る為に社会人という仮面も被って。
私のその頑張りは、ランキングチャートに乗る彼女の名前に現れていた。
嬉しい。私は彼女というアイドルの一部なのだと感じられた。
だからネットのニュースを見た時思考が止まった。
フェイクニュースだと思って色んなニュースアカウントを見た。
彼女だけの人生を歩んできた私に1つだけの通知。
これだけ彼女に捧げてきた自分は、彼女と繋がっていると感じていた。
でも私と貴方との繋がりは、ただこのofficial accountの1つだけだったのだ。
一方的なお知らせと、妙に噛み合わない返信。
彼女は私の名前も顔も知らない。
私は彼女の本名も歌声も、人生をも知っているのに。
私は彼女のアイドルという人生に同乗しただけの、唯の一般人なのだ。
立派なのもすごいのも、血の滲むような努力をして掴み取った夢も彼女だけのもの。
私のものじゃない事に気付くなんて今更だ。
でも私には彼女しかなかったから、だからこのトークを開いたら私が終わってしまうと思った。絶望の色。
私はまだ、最後の通知に既読をつけることが出来ない。
完璧な人生を歩みたい。
そう思いながら生きているのは間違いだろうか。
完璧とは言いながら、なにもそれは大金持ちになったり一生無くならない名誉を貰ったりする様な大きな話ではない。
ただ世間で言う想い人との結婚だとか、愛娘だとかそういう有り体の幸せをできるだけ多く集めたいだけだ。
自分の決めた人生設計を完璧にこなす事、それは私にとっての完璧な人生だ。
死に方すらも。
愛した人に囲まれて、自分の存在を惜しまれて。
そんな最後なら、自宅で賢くも自分の死を悟って逝けたら。
その人生最後の野望が完遂できて初めて完璧な人生となる。
私はまだ未完成だ。
貴方の香水の匂いが好きだと言ったのはほんの3年前の話。
流行に敏感な貴方がこの香水ばかりをつける様になったのもその頃だった。
貴方のつけていた品名が何かも知っている。でもただ貴方の匂いを探している。
私といる時は私のことだけを考えて欲しい、ただそれだけの話。
私と貴方の関係は辞書で引いたら出てくる言葉に当てはまりますか。
貴方には他に夢中なってる誰かがいる事は知っているし、もうそんな事はいいのです。
身体を預ける度に「好き」と言うのは何故。
誰かに向けているはずの言葉を私に重ねているのでしょう。
言葉じゃなくて、ただ貴方の愛が知りたいだけ。
彼は用事のある時しか連絡しないタイプだ。
そして業務連絡みたいな敬語の文章。
貴方との写真が映るトーク画面には、おおよそ恋人同士とは言えない様な文字列を浮かべている。
彼は私に用事のある事は絶対に事前に連絡をくれる。
誤解が生まれない様に、丁寧に私との関係を紡いでくれる。
誠実という言葉がよく似合う、真面目な人。
私の中の彼の印象で私と真反対だ。
そんな所が好きになったのかなとも思う。
あぁ、なんだか貴方に会いたくなってきた。
彼が帰ってきたら私が家にいて、貴方に抱きついたらなんていうだろう。
でも貴方が私の突然の行動を結構好いているのは知ってるよ。
「君はいつも予想外で楽しいね」って言うから。
鍵だけ閉めて、前に褒めてたプリンを買って貴方の家へ。