私は愛に囲まれ生きてきた。
友達に困った事もなかったし、恋人に裏切られた思い出もない。
家族仲も良好でいつも自分が愛されて育ってきた自覚はある。
ただ、自分が本当にそれで良いのかという問いは常に私の中にあった。
愛されている故の無頓着、無意識で他人の事を傷つてけている。
そんな感覚が私にはあった。
私は私の大切な人全てを甘い愛で満たしたい。けれどそれは私のエゴかもしれない。
私はただ、愛の雨に佇む。
走馬灯を見てみたいと思う。
自分のことをわかっている様で、何もわかっていないから。
自分の人生だけど、自分が死ぬ時まで何が記憶に残っているわからない。
あんなに楽しかった旅行も、これが人生だと感じた恋も何もかも過去のものだと振り返ってしまう事ができるのが怖い。
日記をつけていたら良かったのにと何度思ったか。
頭の引き出しにしまってあるあの日の感情も、いつも身につけている様な気持ちも全部を覚えていたいと思う。
日記帳があればいつでも私の人生の走馬灯を見れるのにと後悔する。
あの人は私の事が大好きだった、と思う。
いつも私の側に居る事を望んでいたし、口癖は「君の望む方にしよう」だった。
あの人はいつも優しかった。
「なに食べる?」
「君はなにが食べたい?」
「手を繋いでもいい?」
「もちろん、君がいいなら是非繋ごう」
「私、どっちの道に進むか迷ってるの」
「君の望む方に行けばきっと上手くいくさ」
いつも私を隣で見ていてくれた。時には背後から支えていてくれた。
本当に出来た恋人だと思うし、彼が私の側に居て良かったと思う。
それでもね、貴方は私の些細な悩みも知っているけれど私は貴方が居酒屋でいつも頼む食事すら知らない。
時々、本当にそれで良いのかなと思っていた。
そんな不安が膨れすぎて、それでも貴方は私を優先してくれると知っているから。
いつもと違うデート、いつも私と横並びに座る癖のある貴方を先に座るよう催す。
貴方と私、最初で最後の向かい合わせ。
あなたの初恋は何色ですか?
そう聞かれたら貴方は誰を何色で描きますか。
私は春の青色、桜吹雪の舞う季節。
それはクラス会に遅れてやってきた人。
当時小学生の貴方は桜の舞う季節に、ピンク色を引き下げて急いで私の前に現れました。
公園に咲く桜とそこに映える青のスポーツTシャツ。
私の目はそれだけを輝かせて映しました。
好きだった貴方のSNSをフォローしたのは6年後。
もう接点も無くなった貴方の今の印象は、アイコンにしている茶色の景色です。
大好きだと思っていた貴方はピンクに映える青色と真っ直ぐな瞳ではなく、茶色のコートに茶色い髪の横顔だったのでしょうか?
今でもまだ好きだと思っていた6年間、この思い出が恋の色だと思い続けていた6年間、私が好きな貴方は本当に今の貴方だったのでしょうか。
夜の海には、死にたい人を引き摺り込む魔物がいる。
どこかでそんな話を聞いた事がある。
いつも明るかった彼女は先日海に消えた。
私は彼女が好きだった。明るい性格の奥に潜むその死にたがりをも愛していた。
彼女が自分で生を断つ事を選んだのだ。魔物なんかに彼女が奪われた訳ではない。私は彼女の選択を肯定したかった。それが私の彼女への友情だった。
そんな事を思いながら、私の足は彼女が溶けた海へと自然に向かっていた。
魔物とは水面に揺れる二つ目の月か、この足の冷たさか。彼女はこの海で私を思い出してくれていただろうか。
彼女と生きていたかった。ただ同じ走馬灯を見れたらよかった。
時は夜、この海は私の人生で一番魅力的だった。