音の夢

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6/26/2025, 12:09:43 PM

最後に聞こえた君の声は、酷く悲しそうで、少し申し訳ないなぁと思った。
やめてくれよ、君にそんな声を出されると僕が悪いみたいじゃないか。誰も悪くないのに。強いて言うなら何も言わなかった僕が悪いんだけど。ただ君と一緒にいる時に話す機会を失くしてしまっただけなんだけど、ね。君と一緒にいると楽しくて、そんな事忘れていたかったんだ。このままずっと、なんてそんなこと考えてたんだ。出来ないっていうのは僕が一番解っているし、この日が近付けば近付く程どうしようもなくそうなって欲しいと思っていたのも僕だ。


…そうか。
僕は、僕も、こうなるのは嫌だったんだ。


たとえ君の最後の言葉を忘れたとしても、
君の最後のあの声は、
僕の頭にこびり付いて決して忘れることはないだろう。
『最後の声』

6/19/2025, 10:33:30 AM

雨上がりはいつも不思議な匂いがする。水蒸気のような、湿気のような香り。雨が上がった暫くの間、虹と共にその匂いは僕たちのそばを通り過ぎていく。建物の中にいて雨に気付かなかったとしても匂いが、濡れた地面が通り雨の存在を教えてくれる。
外で降ってきた雨はあんなにも憂鬱になるのに、窓から見た雨は不思議と落ち着いて、さすがに豪雨なら学校が休みになるかワクワクする。
雨の香りは雨が降ったあとじゃないと分からないけれど、ふとしたときに何気なく気になってしまう僕はこの匂いが好きなのだろうか。
『雨の香り(、涙の跡)』

12/23/2024, 8:48:44 AM

ふらりとスキーに出かけた帰り。
近くに温泉があるらしいので汗を流すことにした。
お金を払い入った温泉は、外にも中にも様々な湯船があって壮大だった。
楽しむついでに回っていると、「季節の温泉」という札がかかった湯船があった。お湯にはたくさんのゆずが入ったネットがいくつも浮かんでいる。辺りにはゆずの香りが温泉の香りにほんのりと混ざっている。そういえば冬場のこの時期はゆず風呂が有名だった。
ゆず風呂に浸かりながらネットを少しだけいじる。いい香りで返してくれるこのゆず達は、明日もお湯に浸かって香りを辺りに添えるのだろう。
『ゆずの香り』

12/16/2024, 8:49:07 AM

初めて見たその景色は、とても綺麗だった。
光り輝くダイヤモンドダスト、眼下に広がる樹氷の群れ。
そんな景色を一目見た瞬間、心を奪われた。
何度も来たい、行ってあの景色を再び見たい。
__そんな思考をずっと片隅にもつようになった。
ただ、季節の特徴は少しずつ消えていってしまった。
あの場所ではもう、二度とあの美しい景色を見ることは叶わないのだと。頭では理解していても、心が、体がそれを拒否し続ける。


もう、あの場所では雪は降らなくなってしまった。
それでも、またあの美しい奇跡を。
いや、もう劣っていてもいい。雪をこの地に降らせてくれ。
今日もまだ、あの場所で待ち続ける。
音もなく降る、美しいキセキを夢見て。
『雪を待つ』

12/12/2024, 7:35:37 AM

「おはよー」「はよ、飯できてるぞ。」「うぃ、顔洗ってくる。」
なんでもない日常。2人はルームシェアをして過ごしていた。
血は繋がってない。そもそもどこでどうやって出会ったかも忘れた。それぐらい長い仲だし、こうして共に過ごせる程度には深い仲だ。
「「いただきます」」
彼が作ってくれた朝食を頬張りながらふと出会いのことを思い出そうと逡巡する。一向に記憶の底から出てくることは無い。
「どうかしたか?」
どうやらずっとご飯にそっちのけで彼を見つめていたらしい。なんでもない、と誤魔化しながら再び食事に戻る。
とはいえ1度気になったものはなかなか頭から離れないもの。味を気にしないほど考え込んでしまい、気づいたらもう何も残ってない食器が目の前にあった。
「ごちそうさま」
まだ食べている彼を横目に食器を洗い場に流し、部屋に戻ってベッドに倒れ、考え込む。


最近よく見る夢がある。彼がよく分からない奴らを倒していく夢。しかも毎回場所や時代が変わっていく。それがやけにリアルで、最近は現実と区別がつかなくなってきた。それに彼も夜中外を出歩くようになったのが余計にそう感じさせてくる。実は眠っていなくて、実際に後をついて行って見た光景なのではと思ってしまう。

でも、それでも。彼のことは信用してるのでいつか話してくれることを祈って。いまは何でもないフリをしていよう。
きっと、まだ。その時じゃないだろうから。
『何でもないフリ』

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